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時代の正体〈473〉木村草太さんが語る安倍政治(上) 必要性の論拠総崩れ

時代の正体 神奈川新聞  2017年05月25日 10:19

きむら・そうた 憲法学者。首都大学東京教授。2003年東京大法学部卒、同助手。16年から現職。著書に「憲法という希望」(講談社現代新書)、「テレビが伝えない憲法の話」(PHP新書)、「集団的自衛権はなぜ違憲なのか」(晶文社)ほか。横浜市出身。
きむら・そうた 憲法学者。首都大学東京教授。2003年東京大法学部卒、同助手。16年から現職。著書に「憲法という希望」(講談社現代新書)、「テレビが伝えない憲法の話」(PHP新書)、「集団的自衛権はなぜ違憲なのか」(晶文社)ほか。横浜市出身。

【時代の正体取材班=田崎 基】国会で審議が進むいわゆる「共謀罪」法案。衆院本会議で強行採決され、審議の場は参院へ移る。世論調査では、議論に時間をかければかけるほど反対が増えている状況だが、政府・与党などは今国会での成立を目指す。憲法学者で首都大学東京の木村草太教授は、議論の進め方、立法の必要性、そして政府の姿勢そのものに欺瞞(ぎまん)をみる。


 政府側が「共謀罪」法案を必要だとする二つの理由として挙げているのが「国際組織犯罪防止条約(TOC条約)への批准」と「テロ対策」だ。

 だがこのいずれもが、論拠として崩れてしまっている。

 TOC条約への批准は現行法のままでもできるという主張のほうが説得力をもって展開されている。というのも、そもそもこの条約では各国の立法の裁量を幅広く認めている。

 各国の対応を示した「立法ガイド」でも、必ずしも条約の文言通りでなくても締結できると書いてある。したがって、いま審議されているようなサイズの法律は必要がない。

 また「テロ対策」については、既に多くの法律がある。例えば「テロ資金提供処罰法」という法律もその一つ。

 この法律ではテロのために物品や役務を提供することが全て犯罪となっている。計画段階で、薬物を準備したり、下見をしたりする行為はこの法律で逮捕できる。

 こうしてみると、立法の必要性を論じる根拠は大うそであると分かる。

歯止めなき法文


 では何かメリットはあるのだろうか。

 政府は「組織的犯罪集団を対象としているのであって、一般人は対象にしない」と言っている。だが法文上、組織的犯罪集団の定義は「犯罪目的の団体」という定め方であって、指定暴力団のように、過去に罪を犯した人が構成員にいることや、公安委員会での厳格な審査を経て認定された団体というものではない。

 むしろ法文の規定は一般的な団体を広く対象にできる定義となっている。そしていったん対象とされてしまえば歯止めが利かない。乱用の危険は極めて大きいと言わざるを得ない。このようにメリットはほぼなく、デメリットが大きいことがこれまでの議論で明らかになってきた。


憲法学者の木村草太さん
憲法学者の木村草太さん

 しかし、安倍首相は非常に審議を急いでいる。指摘された問題を改善しようとする姿勢も全くない。

 安倍政権はこれまでに学習を積み重ねてきた。それは、この手の賛否が割れる法案を通す際の手法は、とにかく審議を急がなければならないということ。思い出されるのは、改憲の発議要件を定めた憲法96条の改正と安全保障法制だ。いずれも議論が始まった段階では賛否が拮抗(きっこう)していた。だが議論すればするほど内容がむちゃくちゃであることが浸透し反対が増え、その差は広がっていった。

 この手の説明がつかない法案は、議論を長引かせると穴ばかりが目立ち、国民にその本質的な問題点がばれてしまう。だからその前に採決してしまうのがいいと安倍政権は学習した。したがって「共謀罪」法案の賛否はいまは拮抗しているが今後1カ月、2カ月と議論すれば、必要性に論拠がないことは明白であるため、そのうそが露呈するだろう。いま急いでいる理由はそこにある。

 警察、検察はこの法律をかねて欲していたはずだ。逮捕したい対象者が出たとき、この法律を使えばおおよそ逮捕理由が生み出せるからだ。

 こうした、国民の反発を生むような法案を国会審議に乗せることを普通の政権は嫌がる。だが安倍政権は違う。批判を無視して強行しても政権はそれほど揺るがないという目算があるのだろう。これは、国民が安倍政権を相当甘やかしてきたからに他ならない。

通底する「乱暴」


 森友学園問題でも、いまだに誰も責任を取っていない。重要文書を廃棄したという一点をもって財務省の幹部が処分されていい問題だ。首相のかけられた嫌疑を晴らせない責任は財務省と財務大臣にある。

 これは即クビだと言いたいわけではなく、「文書が出せない、出てこない限りはあなたはクビだ」と言わなければ、重要文書は出てこないだろうということ。「なくしました」で済みそうだから出してこない。

 閣僚や議員の度重なる失言もそうだ。

 この程度なら国民は大目に見てくれるということを学習してきたのが安倍政権だということ。そうした状況下で提案されているのが「共謀罪」法案。欺瞞だらけだとしても「また国民は見過ごすだろう」と思われている。

 安倍政権に通底しているのはこうした意味での「乱暴」だ。

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