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時代の正体〈469〉「ジャパンファースト」の正体 差別扇動者の話法(下)

時代の正体 神奈川新聞  2017年05月11日 17:30

 人種差別・排外主義政策を掲げる極右政治団体「日本第一党」が都議選の立候補予定者の記者会見を開いたのは4月27日のことだ。

 「党のスローガン、ジャパンファースト、日本第一主義が信条」「自分の信じる意見を発信し、記録に残るところに、私たち日本第一党の気持ちを残していきたい」

 今年2月に結党し、全国の地方議会に議員を送り込むという日本第一党初の公認候補、八王子市選挙区(定数5)に立つ岡村幹雄氏は抱負をそう語った。新潟県出身、法政大を出た後、都内の郵便局勤務などを経て3月に日本郵政株式会社を定年退職したばかり、落ち着いた物腰が印象的な60歳。会見で語られたのはしかし、この国のヘイトスピーチを扇動してきた党首、桜井誠氏に重なる話法だった。

 主な公約に掲げたのは、築地市場の豊洲移転早期実施と移民受け入れの中止、外国人への生活保護支給停止。「特に移民受け入れを心配している」。国家戦略特区を活用して東京都で4月から始まった外国人労働者による家事代行サービスに「(在留期限の)3年で帰る人は少ないのではないか」との懸念を示し、「移民受け入れがなし崩しで行われるのではないか。外国人に頼れば、次世代に大変な負の遺産を残す。大変心配している」と述べた。

 根拠のない疑念を向け、不安を強調する姿に隣席の桜井氏がだぶる。ありもしない「在日特権」を持ち出し、不公平感や危機感を喚起し、排斥感情をあおるのが常とう手段だからだ。

 質疑応答で私は桜井氏の言動を岡村氏がどう感じているのかを質した。昨年7月の都知事選に立候補した桜井氏は「日本で生活保護をもらわなければ、きょうあすにも死んでしまうという在日(コリアン)がいるなら、遠慮なく死になさい」という差別発言を街頭演説で行っている。「岡村さんも同じ考えか」と尋ねると答えた。「言葉だけを切り取ると大変強烈になるが、出入国管理法および難民認定法では自立した生活ができない外国人は上陸できないとなっている。その点からも基本的な考え方は党首と同じだ」

 人道的観点からの行政措置である外国人への生活保護支給に入管難民法を持ち出すのは筋違い。そもそも私は最後の命綱である生活保護を断ち切るという、外国人を「死んでも構わない」存在とみなす差別思想を問題にしている。

 「『遠慮なく死になさい』という発言にも同調するか」と重ねて問うと、岡村氏は「逆に聞きたいが、生活保護を受けなければ直ちに死ぬという方を見たことも聞いたこともない。そういう状況があるとお考えか」と問い返してきた。

 質問には答えず、逆質問で議論をずらすのも桜井氏流。私は「そうした状況にある人は実際にいて、最後の命綱である生活保護を絶つのは重大な人権侵害だ」と答えたが、岡村氏は「助けるのは国籍のある国。自分の国にお願いするのが筋」。困窮する外国人への扶助制度は欧州先進国などでみられるが、「欧州とは制度も金額も異なる。日本と比較するのは間違い」。桜井氏の主張をなぞった受け答えが冷たく響いた。

第一主義の正体


 桜井氏は全国各地でヘイトデモ・街宣を主導し、人権侵害事件を繰り返してきた「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の創設者で前会長。自身も東京・小平の朝鮮大学校前で「殺してやるから出てこい」などと叫んだ街宣が違法な人権侵犯であると法務省に認定され、二度と繰り返さぬよう勧告を受けている。

 その後もヘイトスピーチを繰り返す党首をどう考えるか、と岡村氏に問うた。答えは「物事には始まりがあり、結果がある。なぜ党首がこんなに怒っているのか、根本原因を考えてほしい」。

 「差別をしてよい理由など存在しない」と私が応じるや、桜井氏が「私が答える」と割って入ってきた。朝鮮大学校前でのヘイトスピーチについて、在日コリアンが起こした事件を挙げ、「ふざけた朝鮮人を受け入れるいわれはまったくない。朝鮮人がいなければ、そんな事件が起きるわけがない。それを言っているだけだ」。

 一つの事件を引き合いに「だから朝鮮人は」と十把一絡(じっぱひとから)げに語る人種差別の典型。外国人の人権を守るべきだと言うと、それによって日本人の人権が侵されるわけではないのに日本人の人権はどうなると反問し、日本人の人権こそ守るべきだと声高に叫び、外国人の排斥を正当化してみせる。これが桜井氏の唱える「ジャパンファースト」だ。耳当たりのよい「日本第一主義」も差別を正当化し、排斥をあおるための空疎なスローガンにすぎない。

 「人権侵害事件を繰り返す党首をどう思うか」と再度問うた。静かな口調の岡村氏が気色ばんだ。

 「気をつけてください。事件ではない。事件という言葉は訂正してください」

 岡村氏自身の言葉をようやく聞いた気がした。私は、一例として在特会メンバーが刑事裁判で有罪判決を受けた京都の朝鮮学校前で行った街宣活動を挙げ、訂正などしなかった。

膨らむ疑念


 会見後、桜井氏は「あんた、けんかを売るんじゃないよ、記者会見の席で」と私を非難した。考えを問うことを「けんか」と受け取る態度にいよいよ疑念は深まる。

 真摯(しんし)に政治活動に取り組むつもりがあるのだろうか。

 産経新聞のウェブサイトに掲載されたインタビューでは「10~20人ほど立候補させる」としていた都議選だが、岡村氏以外の擁立は「人材がいればだが、現在のところいない」という。岡村氏が初めて桜井氏に会ったのも記者会見の前日。感涙したという岡村氏は「党首は大変お忙しかったようで」と気に留めていない様子だが、桜井氏自身はこの間、自著の執筆にいそしんでいたとツイッターに書き込んでいる。

 会見終了後、私は岡村氏にあらためてきっかけを尋ねた。

 「5年前に自分専用のパソコンを買い、漫画とかを面白がって見ていたところ、桜井氏が街頭で演説している動画に行き当たり、引き込まれた。それがきっかけ」

 一体、差別発言を繰り返す動画の、どこに引き込まれたのか。

 「信念を曲げないところ」

 桜井氏から私が感じるのは、自身や団体が勧告や有罪判決を受けようとも、デマや詭弁(きべん)を弄して自身の言動を正当化し、差別をやめないという強固な信念だけだ。差別が目的化した確信的、職業的差別主義者の姿でしかない。

 都知事選のさなか、選挙カーで在日本大韓民国民団(民団)中央本部前に乗り付けた桜井氏の悪罵が動画共有サイト・ユーチューブに残る。「民団の人間はさっさと日本から出ていけ。日本から必要とされていない」

 そして言い放った。「(選挙期間中の)16日間は無敵だ。久々に民団前で思う存分街宣ができた。この快感を再びということでまた街宣をする」

 公職選挙法では政見放送に関しては「品位を損なう言動をしてはならない」という規定があるが、選挙演説には制限がない。法務省は「選挙中であっても不当な差別的言動が許されるわけではない」との見解を示しており、ヘイトスピーチ解消法の精神を生かした対応策が求められる。

 米国からは「米国第一主義」を掲げたトランプ大統領が選挙期間にヘイトスピーチを繰り返した結果、マイノリティーへのヘイトクライム(憎悪犯罪)が多発するというニュースが伝わる。

 都議選は6月23日告示で7月2日投開票。駅頭で演説を始めたという岡村氏は「庶民感覚を大事にしていきたい」と語る。桜井氏によると、年会費5千円の党員は「いずれ政権を取る」とぶち上げた2月の結党大会から200人増えて1800人になったという。


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