1. ホーム
  2. 社会
  3. 【記者の視点】虚偽表示問題 “丸投げ”浮き彫り、業界の自主ルール急務=経済部・岡本 晶子

【記者の視点】虚偽表示問題 “丸投げ”浮き彫り、業界の自主ルール急務=経済部・岡本 晶子

社会 神奈川新聞  2013年11月14日 12:45

ホテルや百貨店のメニュー・商品の虚偽表示が、後を絶たない。阪急阪神ホテルズ(大阪市)に始まった騒動は、県内にも飛び火。輸入物のバナメイエビを「芝エビ」、ブラックタイガーを「車エビ」として提供するなど、高級感を売りにしてきたホテルや百貨店の、お粗末な実態が浮き彫りとなった。消費者の信頼を失墜させる深刻な事態。各社のコンプライアンス(法令順守)意識は、どうなっているのか。

「やまゆりポーク」は別の国産豚肉、「朝摘み有機野菜サラダ」には当日の朝、収穫していない野菜も含まれていた-。小田急リゾーツは1日、小田急山のホテルなど県内4施設でメニューと異なる食材を使っていたと発表した。県内で発覚した最初の事例だった。

3連休明けの5日には、百貨店業界にも波及。高島屋が都内で会見を開いたのを皮切りに、翌6日はホテルニューグランド、横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ、そごう横浜店、8日は横浜ロイヤルパークホテル、京急百貨店、さいか屋…と続出した。

明らかになったのは、仕入れやメニュー作成は取引先や現場任せという実態だ。

ある百貨店では、レストランを運営する業者が牛脂を注入した加工肉を「ステーキ」として提供していたが、一連の騒動を受けて実施した社内調査で、初めてそうした肉が使われていたことを知ったという。百貨店が、原材料まで踏み込んだ確認をしていなかったのだ。「認識が甘かった。われわれの中にも緩みがあった」。この百貨店の幹部の一人は、うなだれる。

県内のあるホテルの調理部門幹部も「正直言って、ホテルで提供するすべての食材を把握しているわけではない」と打ち明ける。

ある時点から購買部門が「芝エビ」を冷凍の輸入エビに切り替えたが、調理部門に伝達されていなかった。しかも、調理スタッフが両者の違いを理解しておらず、メニュー表示の誤りを見抜く者もいなかった。「プロである以上、恥ずかしい限り」と釈明する一方、こう指摘する。「ホテルの規模が大きくなるほど、それぞれの部門が別会社のようになり、コミュニケーション不足が生じる。部門間の連携が必要だ」

すべては現場に“丸投げ”。組織立って管理する発想、仕組みがそもそもなかった。

■ □ ■

各社が、問題の起きた背景として挙げるのが「景品表示法」に対する従業員や取引先の認識不足だ。

外食のメニュー表示に適用されることの多い法律で、正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」。消費者が、より良い商品・サービスを安心して選べる環境を守るため、不当表示を規制している。

実際の物よりも著しく良いと消費者が誤認する表現は不当表示(優良誤認)としている。消費者庁は違反行為が認められた事業者に対し、一般消費者への周知徹底や違反行為の差し止め、再発防止策を講じるなどの「措置命令」を出す。

同庁によると、2004年4月~今年10月のメニュー表示に関する違反事例は、8件にとどまる。同庁は「一般に、自主報告があった場合、事実関係の確認を行う」としているが、それは一方で、大小の飲食店が無数に存在する中で、国の監視そのものに限界があることを露呈し、事業者側の“緩み”を生む要因になったともいえる。

今回の一連の虚偽表示のうち、どれが法律違反に当たるのか。消費者庁に尋ねると「現在どの案件について調査しているか、あるいは、どの案件が法律違反になるかコメントできない」との回答だった。

「判断のポイントは、実際よりも『著しく』良いと思わせるような内容かどうかだろう」。「実務解説 景品表示法」の著者でもある波光巌弁護士(76)は、指摘する。

■ □ ■

「オリジナル」「自家製」をうたいながら市販品を提供するといった、法律以前の商売人としての道徳観を疑わせるケースもあった。折しもクリスマス、正月と書き入れ時を迎える両業界だが、業界全体のイメージ悪化は避けられない。

信頼回復と再発防止は本当にできるのか。

必要なのは、業界による自主規制ルールだと波光弁護士は強調する。業界団体などが、公正取引委員会と消費者庁の認定を受けて自主的に定める「公正競争規約」のことを指す。

「業界を挙げて取り組むことで消費者へのイメージ向上が期待できるほか、相互監視といって、ライバル他社の動きに目を光らせることが抑止につながり、結果的に不当表示が減るはずだ」

求められるのは、見た目を取り繕う腕ではない。適切な食材、適切な料理、適切なメニュー表示、適切な値段設定というごく当たり前のことだ。食のプロとしての誇り、そのありようが問われている。

◇「本物」見抜く力必要

高級感や非日常を売りとするホテルや百貨店。日々の食事や衣料品を節約する庶民にとって、たまには“ちょっとした贅沢(ぜいたく)”を、という思いを満たしてくれる場でもあったはずだ。

ある水産仲卸業者は「国産の車エビの市場取引価格は、1キロ4千~5千円。輸入物のエビと比べれば10倍ほど高く、高級すし店や天ぷら店でもなければとても扱えない」と証言する。ホテルや百貨店が高額な料金を取りながら、実際には安価な材料を使うことが業界の「常識」だったのならば、随分と消費者をばかにした話である。「法律を知らなかった」という言い訳が通用するはずもない。

各社とも虚偽表示は一連の騒動を受けて行った社内調査の中で判明した、としている。では、阪急阪神ホテルズの一件がなければ今も消費者はだまされ続けていた、ということか。連日の報道のさなかに、どさくさに紛れて発表してしまおうという企業側の思惑も垣間見え、怒りや不信感は募るばかりだ。

信頼回復に向け、業界を挙げた取り組みが早急に行われるべきであることは言うまでもない。一方で、消費者の側も、これを機に、ホテルや百貨店というブランドにとらわれず、「本物」の価値を見抜く目を養う必要があるのかもしれない。

【神奈川新聞】


シェアする