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【特集】〈時代の正体〉立ち上がる日本ペンクラブ なぜ表現者は共謀罪に「NO」と言うのか

時代の正体 神奈川新聞  2017年04月24日 19:02

共謀罪への危機感をあらわにする表現者たち。(左から)映画監督の森達也、作家の中島京子、作家の雨宮処凜、作家の浅田次郎
共謀罪への危機感をあらわにする表現者たち。(左から)映画監督の森達也、作家の中島京子、作家の雨宮処凜、作家の浅田次郎

【時代の正体取材班=田崎 基】国会で本格的に審議入りしたいわゆる「共謀罪法案」。言論人の団体「日本ペンクラブ」(浅田次郎会長)は2月、反対声明を発表した。明確に「NO」の意思を示そうと今月7日には都内で、一線の作家や映画監督、漫画家、学者らが「共謀罪は私たちの表現を奪う」と題してマイクを握った。表現者の使命として語られたのは、かつて抱いたことがないほどの危機感だった。登壇者14人の発言を詳報する。

「改心と表現認めぬ法」

森達也(作家、映画監督)
 あなたはいま生活が逼迫(ひっぱく)しています。お金が全然ない。毎日食べるものすらない。そうしたとき昔の悪い仲間から電話がかかってきたとする。「ちょっと銀行を襲撃しない?」


「共謀罪」に対して危機感をあらわにする映画監督の森達也さん=7日午後、東京・文京区のシビックホール
「共謀罪」に対して危機感をあらわにする映画監督の森達也さん=7日午後、東京・文京区のシビックホール

 10人くらいで計画を聞いた。人生イチかバチか、博打(ばくち)でやってみようか。そこで銀行に下見に来た。待合室で子どもを抱いたお母さんを見た。「自分にもあんな時期があったな。俺はいま何をやってるんだろうか」。銀行を出て、やっぱりやめようと思った。仲間たちも同じように考えていた。

 「そうだな。やっぱりやめよう」。そう言って居酒屋に行き、なけなしの金でビールを飲んで帰る。

 うちに着いたら家の前で警察が待っていて、逮捕される。

 こんな時代が本当にやってくるかもしれない。

 ジャン・バルジャン。彼はたった1個のパンを盗んだがために19年間刑務所に入れられた。出所後、迫害され、差別される。憎しみと恨み、その塊になってしまう。やっとジャン・バルジャンを泊めてくれる教会にたどり着く。そこで彼は夜中に、銀の食器を盗む。

 翌日、警察がやってくる。その警察に教会の司教はこう言う。

 「この銀の食器は、私があげたものです」。彼はその場で泣き崩れる。

 ビクトル・ユゴーが書いた「レ・ミゼラブル」。人間の聖なる姿と、可塑性を著している。

 人は弱い。誘惑に負ける。だが同時に人は反省できる。悪事に身を重ねても、違う自分に生まれ変わろうと思う。

 だが、この共謀罪はそれを許さない。捕まえてしまう。

分断と排除の思想


 国会で民進党の山尾志桜里議員が「一般の人が対象になることはないのか」と聞いた際、安倍晋三首相はこう答えた。

 「新興宗教だったオウム真理教が、犯罪集団に一変した。このときにオウム真理教の信者たちを一般人と言っていいんですか。言えるわけないでしょう」

 これを聞いていて、一般の方々は「確かにそうだな」と思うだろうな、と思った。

 オウム真理教の事件で起訴されたのは別件(逮捕)や微罪(逮捕)も含めて63人。一方、当時オウム真理教には1万1千~1万2千人の信者がいました。

 つまり1万人以上の人が犯罪について何も知らない。全く関わっていない一般市民です。

 でも安倍首相の論理を使えば全員、犯罪集団なんです。全部捕まえなきゃいけない。


映画監督で作家の森達也さん
映画監督で作家の森達也さん

 この論理ってなんだろうか。要するに「メキシコは犯罪国家だ」「イランやイラクはテロ国家だ」と同じ。(米国大統領の)トランプと同じことを安倍首相は言っている。一人一人を見ない。全体で見てしまう。つまりは安倍首相自身が最も嫌っている「レッテル貼り」に他ならない。

 「こいつらは犯罪集団だ」「こいつらはろくなことをしない」「こいつらは社会のためにならない」。だから排除しましょう、抹殺しましょう。そうしたことが現実に起きる。もう本当に秒読み段階だろう。

「NO」の意思発信


 今日のこの会の主役は誰か。

 森友学園問題はもう下火になっている。メディアもあまり取り上げなくなった。先日、民進党の議員に聞いた。「なんで森友学園問題をもっとやらないのか」

 まだ疑惑は晴れていないし、おぞましい問題をはらんでいる。(森友学園元理事長の)籠池泰典さんの証人喚問を見て「よし、これで疑惑は晴れた」と思う人はほとんどいないだろう。

 その民進党の議員はこう答えました。

 「いくら追及しても支持率が上がらないんだ」

 野党の支持率は上がらないし、与党の支持率は下がっていない。これほど大きな疑惑があっても盤石です。

 同じことをメディアの人にも聞いた。急に火が消えた。いまも問題はどんどん出てきているのに、なぜ報道を続けないのか。

 「視聴率が上がらない」

 一緒です。理屈は分かります。政治家は支持されないことでは活動できない。メディアも多くの人が見たり、読んだりしてくれないと意味がない。それは分かる。

 分かるけれど同時にやっぱり伝えないと、報道しないと、なかなか分からないことがある。

 だから、今日来ているカメラマン、記者、ディレクター、ジャーナリストの方、お願いします。どんどん報道してください。オンエアしてください。やるべきです。

 僕を含めて、映画監督とか漫画家、小説家、大学教授、写真家にとってみれば言葉や思想、表現は大切な商売道具。だから看過できない。ゆゆしき問題です。

 だから「一般の人には関係ない」と大半の方が思うかもしれない。

 だがそうではない。漫画が非常に沈滞してしまったらどうか。映画が政権に気配りばかりするようになったらどうか。小説が全く批判をできなくなる状況を考えてください。誰が損をするのか。誰が得をするのか。

 10年前であれば、私は「今日の主役はここに来たメディアだ」と言っただろう。だが今日は続きがある。

 いまはツイッターやフェイスブックがある。来場者の皆さん一人一人がメディアになれる。どんどん発信してください。

 知ればびっくりすることがたくさんある。知らない人はたくさんいる。その間に状況は変わる。


 この間、ふと気付いたことがある。

 日本語で、税金って「納める」という。でも英語では「Pay」。つまり支払う。これは支払ったら、等価を手にすることを意味している。

 僕らはいまだに「納める」。これは年貢です。僕らの公共財に対する意識はいまだにそのレベルなんだ。だがそろそろ脱しないといけない。こうしたとんでもない法案が出てきたいま、この数年間の動きに対して「NO」という意思を示して、状況を変えましょう。

【集会に登壇した顔ぶれは以下の通り】


浅田次郎(日本ペンクラブ会長・作家) 雨宮処凛(作家) 内田麟太郎(絵本作家・日本児童文学者協会理事長) 江成常夫(写真家) 金平茂紀(テレビキャスター) 香山リカ(精神科医・作家) ちばてつや(漫画家) 長谷部恭男(憲法学者、早稲田大教授、立憲デモクラシーの会) 森絵都(日本ペンクラブ常務理事・作家) ビッグ錠(漫画家) 森達也(作家・映画監督) 田近正樹(日本雑誌協会人権・言論特別委員会、日本書籍出版協会出版の自由と責任に関する委員会) 山口勝廣(写真家・日本写真家協会専務理事) 中島京子(作家)


作家の中島京子さん=7日午後、東京・文京区のシビックホール
作家の中島京子さん=7日午後、東京・文京区のシビックホール

知るほど怖い不条理

 中島京子(作家)
 共謀罪が国会で審議されると聞いて思ったのは「また強行採決をするに違いない」という諦めの気持ちだった。反対の声を上げることに意味があるのだろうか。だが私たちはそうして諦めたり、理不尽なことに慣らされたりしていくこと自体に抵抗しなければいけない。そう思い、今日ここに来た。

 今年は都議選があるため、あまり会期を延長したくないという与野党双方の思惑があると聞き、安全保障関連法制の時のように頑張れば、なかなか採決に入れないのではないか。審議未了で廃案とできないか、とも考えた。

 何度も廃案になったのにまた出てきた法案だ。277も対象犯罪があるという。

 自分に関係があるとしたら著作権法違反だ。だが著作権侵害は「私はやっていないよ」と思うようなことでも起きる犯罪だ。もし著作権侵害の共謀罪が問題になるとしたら、一字一句そのまま同じ、表現そのものを引き写そうとしているような場合だろう。だがそれを「やろうかな」と思った段階で、一体誰に分かるのだろうか。

 例えば、私が編集者に「アイデアに詰まったから今度、浅田次郎さんの作品を一字一句引き写そうと思うのよ」というメールを送った。編集者が「そうだね、それがいいと思うよ」などと言うはずがない。そのように考えると、本当によく分からない法律だ。


作家の中島京子さん
作家の中島京子さん

 しかもこれがテロ対策だという。一体どのようにしてテロと関係するのか。一層分からなくなる。

 そこで「はっ」と気付く。これはもしかして、著作権侵害をしようと思って話し合うことが悪いことだから、それを取り締まろうという法律ではなく、誰かを取り締まりたいと思ったときに、277も対象犯罪があれば、どれにすればいいかなと、探すことができる法律なのではないか-。

 これはまずいぞ、と思った。

計画と実行の距離


 十数年前の話だが、公安調査庁が「日本ペンクラブ」や「生活協同組合」を対象に調査していたことが発覚した。

 「えっ、私はペンクラブも生協も入っているよ」と驚いた。調べたら1996年度の公安庁の内部文書から明らかになったという。「日本ジャーナリスト会議」や「アムネスティ・インターナショナル」などについても情報収集をしていたそうです。

 だとすると、私と関係ない人が取り締まられる法律だとは到底思えない。


作家の中島京子さん
作家の中島京子さん

 私たちは表現の自由でご飯を食べている。共謀罪は心の中を取り締まる法律だ。「心」とはとても複雑にできている。「やろう」と言ったとしてもやるとは限らない。本当に思っていることを人に言ったり、書いたりするかどうかさえ分からない。書いたり言ったりしたとしても「やる」にはすごい距離がある。

 人の心はとても複雑で、その複雑さをそのままにしておけないような法律を作ろうとしているとしたら、とんでもないことだ。

権力の「敵」切る法


 森友学園の問題が出てきた時に、「共謀罪」と似ていると思った。似ているというか、表裏の関係にあるのではないか。

 森友学園問題は、仲間内や味方だと権力が思ったものに対して、あり得ないようなやり方で利益を供与していた。

 一方、共謀罪は権力に対して「敵」や「よろしくないもの」をあり得ない方法で取り締まることができる法律だ。

 毎日報道を見ていて思う。書類が全然出てこない。黒塗りだったり、自動的に文書が廃棄されていくパソコンを使っていたりする。そうした権力が共謀罪を手にするかと思うと、本当に恐ろしい。

 4度目の廃案を目指していきましょう。

おおらかさ失う日本


 ちばてつや(漫画家)


漫画家のちばてつやさん
漫画家のちばてつやさん

 漫画というものは、世界中で楽しまれている。この日本でなぜこんなにさまざまなジャンル、キャラクターができたのかと考えた。

 江戸時代に漫画を初めて描いた葛飾北斎という人がいた。すごい先輩がたくさんいた。葛飾北斎は漫画だけでなく春画も描いた。色っぽい、大人たちがこっそり楽しむ絵をも描いていた。

 そういうおおらかな土壌の中であったからこそ、非常に多様な漫画やアニメが誕生し世界に誇るまでになったのだろう。

 英国の大英博物館で(2013年10月から14年1月に)大春画展をやった。「日本っていいね」「おおらかな文化があったんだね」と言われた。

 そのおおらかな土壌がいま、なくなりつつあるんじゃないか。私は憂いている。

 10年に(東京都の)青少年健全育成条例が改正された。色っぽかったり、暴力的だったりする漫画を取り締まろうというものだった。

 最近、漫画やアニメがまず最初に取り締まられるようになっている。

 漫画の次には、小説や写真、記事、そして新聞記者が取り締まれるようになるのではないか。戦前がそうだった。

 いま、とてつもない大きな渦がゆっくり、ゆっくり巻いているのではないか。日本はいま、巨大な渦の淵にいるのではないか。

 中に入ってしまうか、抜け出せるか。渦の中には戦争のようなどす黒いものがある。その渦に巻き込まれるかどうかの境目にあると思う。

 私は漫画を学生たちに教えている。都条例が改正され、学生たちが急に萎縮し始めた。「先生、こういうの描いたら捕まりますか? 罰金ですか?」と聞いてくる。

 だからその場で「そんなことないよ! 特に学生のうちは何描いたっていいんだよ!」って言う。もちろん見せちゃいけない場所もあるだろうけど「自由になんでもいいから表現しなさい」と言う。

 ところが、いままで面白いのを描いていた学生の漫画が、突然つまらなくなってくる。要するに、優等生や親孝行の男の子、国を思う男の子しか出てこないような漫画になっちゃう。

 ちっとも面白くない。

 やっぱり悪いやつがいて、本当にドロドロの世界が描けて初めて明るい世界が描ける。

 私はこうした状況を憂いています。


絵本作家・内田麟太郎さん
絵本作家・内田麟太郎さん

アホ書く自由のため

 内田麟太郎(絵本作家)
 本当は今日ここに来たくなかった。雨宮処凛さんと一緒に名前を連ねるというのは、非常にやばいな、という気がします。

 私の父はプロレタリア詩人だった。戦前、治安維持法でいじめられ苦労した。私の祖父や祖母もつらい思いをした。そういうわけで父の二の舞いは踏みたくない。幸せに暮らしたいと思いましたので、今日のイベントのお誘いがあったとき「行きません」と答えました。するとメールが来た。「とらやのようかんを用意しております」と言う。だから来ることにしました。

 ここに(捜査)当局の方がおられましたら「内田麟太郎はようかんに釣られてきただけ」と報告してもらいたい。

 父は革命を考えていたのかもしれないが、私はちょっと理解できない。ですから当局の方は「内田麟太郎は保守である」と報告書に書いてもらいたい。


絵本作家・内田麟太郎さん
絵本作家・内田麟太郎さん

 もう私は萎縮しております。自粛もたっぷりしています。革命的では全くない。権力に対して全く反抗的ではない。文化勲章をくださるなら、今日ここに来たことをちゃんと反省します。

 それくらい私はだめな人なんです。私はほとんどアホな話しか書いていないんです。

 父は真面目でリアリズムで、貧乏人がどんなに苦しんでいるかという詩を一生懸命書いていたから捕まってしまった。

 その息子としてはナンセンスユーモアというのを書いてまして、リアリズムには興味がありません。

 ただ、ナンセンスユーモアというものは、どういったらいいか。例えば、森友学園の(元理事長の)籠池泰典さんは、子どもに学校で教育勅語(の暗唱)をやらせていますね。国と子どもたちが非常に密着しているわけです。

 ユーモアというのは対象から必ず距離を取るんです。距離を取らなきゃ笑いが生まれないんです。

 笑いというものは、真面目な話をしているところで屁(へ)をこいてしまうようなところにある。

 ですからナンセンスユーモアというのは、こういう共謀罪が出来上がると、さらに萎縮するのではないかと思う。

 私は何も共謀していない。雨宮処凜さんが隣にいますが、つながるところは「りん」しかないんです。

 共同謀議する場所と言えば、それは当然(ドイツの)ベル「リン」しかない。

 こういうほとんど、アホなことを言って書いている私が、「表現の自由」や「言論の自由」「出版の自由」ってなんだろうか、と考えると、それは「私の自由」だということです。


絵本作家・内田麟太郎さん
絵本作家・内田麟太郎さん

 私が私である自由、つまり、アホなこと書きたい。アホなことを書いて、子どもたちに喜んでもらいたい。そういう私は、なるべく萎縮しないで、書きたいことを書いていたい。

 こういうことを言っている私はたぶん、いや、たぶんですよ、(共謀罪に)反対しているような感じがします。

萎縮する空気に懸念

 作家・雨宮処凜さん
 私はどうやったら安倍政権を倒せるのか、日々考えている。貧困や反原発、安全保障法、反ヘイトスピーチのデモを主催したり、参加したりしている。そういう私は、(共謀罪が成立した場合が)とても不安だ。


雨宮処凜さん
雨宮処凜さん

 東日本大震災以降のいろんな運動が本当に弾圧される理由として共謀罪が使われるのではないかと危惧している。共謀罪がない今でさえ(沖縄平和運動センター議長の)山城博治さんが5カ月も拘留されたということが起きている。

 いまここに「麻生邸ツアー事件」をご存じの方はおられますか? 当時首相になった麻生太郎さんが住んでいる62億の豪邸を、貧乏人が落差を実感するために見に行こうと2008年に企画されたツアーだった。

 ところが歩いているだけで、東京都公安条例違反で一緒に歩いている3人が逮捕された。この逮捕は国家賠償法に基づき請求をしたが、警察の言い分が丸のみされ最高裁で上告を棄却された。

 本当に道を歩いていただけなのに、貧しい人が総理大臣の家を見に行くという意思を持つだけで逮捕されるんだ、と思った。

 このほかにも何もしていないのに逮捕されるという現場を見てきた。共謀罪がなくてもこんな状況なのに、共謀罪ができたら一体どうなってしまうのか。


作家の雨宮処凜さん
作家の雨宮処凜さん

 私は初めて行った海外旅行が北朝鮮だったのですが、帰国すると公安の方から自宅に電話がかかってきました。「誰と行ったのか」などと根掘り葉掘り聞かれ、その後5回北朝鮮に行ったところ、家をガサ入れ(捜索差し押さえ)された。

 私は、共謀罪ができても萎縮することはないだろう。逮捕されたら「女囚 雨宮処凜」という本を出そうと既に企画書が練ってあるので問題ない。だが不安になる方が圧倒的多数ではないか。

 物書きとしても活動家としても、自由を奪われる、自分が意識していなくても萎縮していくようになる。そういう空気を生み出す。表現者として反対と言っていかなければならない。


浅田次郎さん
浅田次郎さん

「看過しがたい」悪法

 作家・浅田次郎さん(日本ペンクラブ会長)
 ペンクラブの使命とは何か。今から80年前、第1次世界大戦が終わった後、どうして戦争が始まってしまったのかとみんなで考えた。言論・表現の自由が制限されたところから戦争が始まったのではないかと文筆家たちは考えた。平和のために言論・表現の自由を守っていこうと世界中でペンクラブができあがった。その日本の支部が私たちです。80年前に島崎藤村が会長になり発足した。

 従いまして今回の共謀罪というものは私たち日本ペンクラブにとって、全く看過できない大問題です。世の中の人が考えている以上に大変なことが起きようとしている。

 ミサイルが発射されたり、大阪で(森友学園の)問題が起きたりすると、そちらの方にニュースがとられてしまい、この法案に対して国民の視線が集中しないというのが現実だろう。

 だが、こうしたタイミングで私たちはじっくりとこの共謀罪を考えてみたい。


 人には命がある。私たちはいずれ死ぬが、作った法律は死なない。法律を作った人がそのとき『きちんとやっていく』といくら言ったところで、その後、子や孫の時代にどのように使われてしまうのか全く分からない。

 だから今がとても大切。いまこの国会の、この今がとても大切な時。この催しを、大きな輪にしていくスタートラインにしてもらいたい。


田近正(日本雑誌協会人権・言論特別委員会委員長、日本書籍出版協会の自由と責任に関する委員会)
田近正(日本雑誌協会人権・言論特別委員会委員長、日本書籍出版協会の自由と責任に関する委員会)

「自由に言えるうちに」

 田近正(日本雑誌協会人権・言論特別委員会委員長、日本書籍出版協会の自由と責任に関する委員会)

 表現の自由が侵害されるのではないか。自由に話ができなくなるのではないか。

 法律が成立しても、すぐに誰かが逮捕されるとは思わない。だが、いつでも逮捕できる、捜査できるという状況があるということ自体が社会に萎縮を生み、社会を変えていくと危惧している。

 当然、大反対だ。

 雑誌協会では3月21日の閣議決定に合わせて「共謀罪法案に反対する」という声明を出した。

 なぜか。例えば、(週刊誌が)強引な取材をかける。「夜討ち朝駆けで官房長官のコメントを取ってこい!」「分かりました!」などといった場合、組織的強要罪の共謀罪になるのではないか。

 普段やっているような取材が捜査される可能性があるというのはとても問題だ。

 今回の共謀罪について、277に絞ったというが、277もの新しい犯罪が作られるということ。その中で、いくつか私たちの仕事に関係のあるものを紹介します。

 例えば企業の不正を暴こうとして編集会議にかけるとする。そうするとこれは「組織的信用毀損業務妨害罪」の共謀罪になりかねない。これは山下幸雄弁護士が指摘しておりました。

 上智大の田島泰彦教授は、「不正競争防止法の営業秘密不正取得」になる可能性があると指摘していた。

 今回、なぜか著作権侵害が入っている。これは、やるつもりがなくても意識せず訴えられることがあるような犯罪だ。

 出版独特の問題としては「児童ポルノ法の提供」が入っている。もちろん児童を虐待から守るという視点は全く否定していない。だが「児童ポルノ」の定義が曖昧という問題点がある。普通の水着の写真が「児童ポルノである」と恣意(しい)的に判断されれば、取り締まりの対象になる。

 性的表現というのは(定義があいまいで)摘発されやすい上に、共謀罪の対象とされれば何でも捜査されかねない。

 この法案が通ったら、逮捕や起訴がなかったとしても、事情聴取で呼んでねちねち圧力をかけられたり、家宅捜索で編集局の情報をごっそり持っていかれる。何を取材しようとしているのか公安に全て知られることになる。

 プライバシーという僕らの頭の中にどんどん入ってくる法律なわけだが、私は絵空事ではないと思っている。

 テロ対策と言っている。だが単独のテロは共謀罪では裁けない。だったらそれを裁けるようにしようよ、と捜査機関は言い出すだろう。すると、単独犯の計画罪が登場しかねない。

 「お前、何かたくらんでいるだろ! 目を見れば分かる!」などという世の中になるのではないかと危惧している。

 まだいまは自由にものが言える。自ら意見を発信していってもらいたい。


写真家・山口勝廣さん
写真家・山口勝廣さん

社会の窓、目、閉ざすな

 山口勝廣(写真家、日本写真家協会専務理事)
 写真は私たちの中ではフィルムの時代が長かった。そのためにインターネットが世界にこれほどまでに影響を与えるとは、表現者としては考えていなかった。

 いまではカメラだけでなくスマートフォンなどでも写真を撮る。一億総写真家時代になったということだろう。多くの人が写真を撮れるようになったことは良い反面、画像と作品との区別がつきづらくなってきている。

 この時代になり「写真が撮りづらい」という声を聞く。特に街のスナップが撮りづらい。人が入った情景のものはほとんど撮れないと聞く。

 人を撮るのは肖像権の問題があるため、勝手に撮って勝手に発表することには問題があるだろう。

 だが、いずれにしても写真は記録であるから、撮っておかなければ残しておけない。単なる家族の記念写真でも5年、10年、50年たつと写真としては大変な価値のある記録となる。

 東日本大震災のとき、多くの方々が犠牲になった。私たち写真界は、波にさらわれた写真を復活させて返そうという運動が起きた。

 復活した写真を受け取った方から「自分たちが生きる証になった」と聞いた。これほどうれしく、写真という記録が重大な意味を持っているということを改めて知らされた。

 同時にインターネットでは写真なのか画像なのか区別の付かないものが世界中を駆け巡っている。

 その中には、著作権があるのかないのか、分からないものもある。もともと著作物である以上は著作権があるはずだが残念なことに、そこがあいまいになっているのも現実。心配なのは、そうした時代に記録をどう残していくのかという問題です。

 いま共謀罪が審議されている。私たちは現場にいなければ写真が撮れない。その対象物や対象者がいる場所を撮らなければいけない。場所に問題があったとしても、撮らなければ残せない。撮ったものを評価してもらう。社会のためにはその窓を閉ざしてはいけない。

 いま共謀罪ができたり、あるいはそういう状況の中で何かしらの嫌疑がかけられたりすれば、写真を撮ることを恐れるような状況が生まれるだろう。そんなことがあっていいだろうか。

 特にいま子どもたちを撮りづらくなっているという。子どもだって「今の子どもたち」を撮っておかなければ残せない。写真にはそれほど重たい意味がある。

 今回の共謀罪は、社会の窓、目、表現そのものを閉ざしてしまう法律だ。そんな法律は、あってはならないものであると写真家たちはみんな思っている。


 社会や政治が嫌がって、難しい問題を押し付けてきたとしても、私たちは抵抗しながら表現者として発表し、社会の実情を知らせていく義務を負っている。それが私たち写真家の使命だ。これからも共謀罪には強く反対の意思を示していきたい。


写真家・江成常夫さん
写真家・江成常夫さん

過去顧みぬ愚行再び

 江成常夫(写真家)
 共謀罪についての解釈については、他の先生がお話されると思う。ですから、必要のない法律がなぜいま出てきてしまったのか。その時代的な背景について話をします。

 私は二・二六事件が起きた年に生まれた。そうした年回りのせいもあるが、1970年代の後半から今日まで、ちょうど40年くらい、満州事変に始まる「十五年戦争」の現地に立ち写真を撮った。時代に翻弄(ほんろう)され、あるいは、戦争という不条理に死を強いられた人たち、言葉を持たない人たちの言葉を写真で代弁をしてまいりました。

 日本がこの十五年戦争の発端となった、満州(現・中国東北部)のあり方については、十分ご承知かと思いますが、国は王道楽土を築く、理想の国をつくると言ってきた。

 だが実体は満州が生んだ戦争孤児の存在、あるいは満州そのものに頼ってきた。私が目の当たりにしたのは、うたい文句とは全く違った実態でした。それを写真に写してきた。


写真家・江成常夫さん
写真家・江成常夫さん

 建国後すぐに主要な都市に神社仏閣を建て、学校を建てた。これはまさに皇国化だった。独立国としての満州国をうたいながら内実は皇国化だった。

 学校も、実際には日本人のための学校だった。一部には中国人のエリートの子どもは例外的に通えたが、基本的には日本人のための学校だった。

 そうした現実をつぶさにみてきた。なぜこうした状況が起きてしまったのか。

 共謀罪は、1925年にできた治安維持法と重なるものがあると言われているが、(時期を同じくして)満州が軍国国家となり植民地となり、それが大戦へとつながっていった。この時代を後押しした背景には治安維持法があった。

 私は、満州だけでなく太平洋戦争の現場にも通ってきた。3年8カ月の大戦で、日本人の兵だけで240万人、民間人を含めると300万人という人命が失われた。だが、これは日本人だけだ。それ以上に犠牲者は外国の方が多い。一説には1千万人、あるいは2千万人という人命が失われた。

 太平洋戦争の戦歴の跡も巡ってきた。いまなおひどい状況だ。真珠湾攻撃から半年後にはミッドウェー海戦で艦隊が壊滅するが、国はそうしたことをひた隠しにして戦争を続けた。

 例えば、インドネシアとパプアニューギニアの近くに小さな島がある。そこでは1万人が戦没した。70年余りたった現在、遺骨の収集状況は、1万人のうち千人にも至っていない。野ざらしにされている。鉄兜(ヘルメット)がぼろぼろになってその内側に頭蓋骨がある。しかもその土地は、現地の人の土地だ。「鬼哭の島」(朝日新聞出版)という写真集の中で紹介している。


写真家・江成常夫さん
写真家・江成常夫さん

 なぜこんなことになったのか。日本はそういった状況をひた隠しにしてきた。

 二つの過ちがあった。

 一つは、戦争という過ち。

 もうひとつは歴史上かつてないような過ちを、語り継いでこなかったということ。

 ドイツの元大統領ヴァイツゼッカーは「過去に目を閉ざす者は、現在に対してもやはり盲目となる」と言った。

 だが日本人は「目を閉ざす」というよりも意図的に、ないがしろにしてきたという側面があるのではないか。

 戦争裁判をみても日本は東京裁判で終わったが、ドイツでは(戦争犯罪を裁く国際軍事裁判)ニュルンベルク裁判の後も国民の側から裁判を続けた。

 現代史に対する日本人の考え方と精神性はドイツとどこが違うのか。科学技術の上では日本は世界に冠たるものがあるが、人間性や精神性で異なるのはなぜなのか。

 いま、必要のない共謀罪というものが出てきた背景には、この過去を見詰めようとしない日本人の精神性が大きく関係しているのではないか。そう思えてならない。


ニュースキャスター・金平茂紀さん
ニュースキャスター・金平茂紀さん

「自由の侵害」そのもの

 金平茂紀(ニュースキャスター)
 「共謀罪」は長い記者生活の中でも特段に危ない法律だということを肌身で感じる。

 「平成の治安維持法」などと言われているが、これは、まだやっていないことが取り締まりの対象になるということ。これは、刑法の考え方である「やってしまったことの償い」ではない。

 内面の自由、プライバシーというものが侵される恐れがある。恐れというか、侵害そのものだ。

 非常に怖い。人の内面をきちんと取材するのが自分の仕事でもあるので、それが取り締まりの対象になるということの恐ろしさを感じる。

 こんなジョージ・オーエルの小説の世界が現実になるなど信じられない。捜査機関に際限の無いフリーハンドを与えることになるだろう。一人一人を監視する社会ができあがってしまう。本当に怖い法律だと思う。言論の自由や表現の自由、報道の自由が侵される恐れが十分ある。

教訓忘れるな


 こうしたことは、これまでもあった。戦前の治安維持法。1942年に有名な横浜事件があった。

 横浜事件というのは、「改造」という雑誌に掲載された、細川嘉六が書いた、なんということもない論文について「反政府的である」と目を付けられ、その論文をきっかけに、当時の「改造」や中央公論の編集者、岩波書店の編集者、朝日新聞の記者たちが片っ端から摘発され約60人が逮捕された。うち約30人が有罪になった。このうち4人は拷問で獄死している。


ニュースキャスター・金平茂紀さん
ニュースキャスター・金平茂紀さん

 これは人ごとではない。雑誌に書かれた論文について「反政府的で、当時のソ連に友好的である」と見なした人間がいる。こうしたことが行われた事実がある。絶対に繰り返されてはいけない。

異常な想像力


 例えば今日の登壇者の中に不埒(ふらち)な人がいたとして、将来、共謀罪の対象になって捕まるとする。すると、この集会自体が共謀関係にさえなりうる。司会を

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