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熊本の教訓(4)避難所 指定管理者の役割は

社会 神奈川新聞  2017年04月19日 14:59

車中泊する人の車で埋まった避難所の駐車場。こうした光景があちこちに広がった=2016年4月、熊本市南区
車中泊する人の車で埋まった避難所の駐車場。こうした光景があちこちに広がった=2016年4月、熊本市南区

 熊本地震の本震から丸1年となった16日、横浜YMCAの報告会で、被災地の教訓が語られた。

 「体育館の出入り口は3カ所あり、避難者が自由に出入りできた。人数の把握などできていなかった」「今思えば確かに、高齢者ら要援護者を受け入れの際に分ければよかったと思う。でもその時は、そんな知識はなかった」

 率直な反省の言葉が、熊本YMCA災害復興支援室の大塚永幸さんの口を突いて出た。明かしたのは、同YMCAが指定管理者となっている益城町総合運動公園での避難所運営の実態。昨年10月末までだったが、前震、本震と2度の震度7で深刻な被害様相を呈した同町で、一時は1500人前後もの被災者を受け入れ、最大の避難所となった。

 昨年4月14日午後9時26分。午後10時まで利用できる運動公園にはまだ、サッカーなどで汗を流す人がいた。前震による突然の激しい揺れで、体育館のメインアリーナは天井の一部が破損。その場にいた人が負傷することはなかったものの、ほどなくして青ざめた住民が集まってくる。行政や支援団体とともに拠点的な避難所を運営するという、指定管理者としては異例の役割を担うことになった。

判断


 総合運動公園の体育館は町の指定避難所の一つ。だが、YMCAの指定管理者としての役割はあくまでスポーツ施設の運営だった。毛布などの備蓄もなく、避難所運営に関して町との正式な取り決めもない。にもかかわらず現場のスタッフが向き合うべき人々は、すぐに500人ほどに膨れあがった。

 十分なスペースはなかったものの、それでも避難者から要望のあったアリーナの使用は危険と判断し、施錠した。翌15日に応援で駆け付け、その状況を目の当たりにした日本YMCA同盟(東京)の山根一毅さんは思った。「この程度の被害なら、アリーナを使ってもよいのではないか」

 だが結果的に、慎重な判断が功を奏す。16日午前1時25分。益城町は本震で再び震度7に見舞われた。アリーナの天井は全面的に落下。山根さんは振り返る。「災害は1度きりじゃなかった。次に何が起きるか想定できていたかといえば、そうではなかった」

 そこからが苦労の連続だった。避難者が次々と押し寄せ、車中泊やテント村へ広がった。物資提供に関する問い合わせの電話もやまず、日赤などの支援を受けつつ、町も含めたミーティングを重ねて役割分担や活動調整を図った。他方、手狭なスペースや食事、トイレ、ペットに関する苦情が避難者からは相次ぐ。

工夫


 多様なニーズに応える形で、工夫も重ねた。女性の更衣室や授乳スペース、子どもの遊び場のほか、喫茶コーナーも開設し、被災した人々がつかの間の休息を取れるようにした。段ボールベッドや間仕切りのカーテンも設置されるようになり、徐々に避難者の生活環境が整っていく。

 総合運動公園の避難所が閉じられた後の昨年11月半ば、横浜YMCAのシンポジウムで、地震発生当時は熊本県の総務部長だった木村敬・総務省理事官は感謝の言葉を繰り返した。

 「あの時もし、YMCAが避難所の運営を引き受けてくれていなかったら、行政が直営でやるしかなかった。そうであれば、完全にあの避難所は崩壊していただろう」

 避難所運営の経験はなくても、YMCAには災害対応のノウハウが蓄積されていた。災害救援の原点は90年以上前の関東大震災にさかのぼり、国内外の被災地に駆け付けたことのあるスタッフが全国に散らばっている。そもそも得意とする野外活動や青少年支援、福祉関連の事業は、災害時にも役立つ。だからこそ平等性や公平性を重視する行政とは異なり、個々の居住空間を広げるといった避難所生活の質の向上を図る視点を生かすことができた。

 試行錯誤を重ねながら徐々に広がっていった手厚い支援は、しかしいくつかの重要な問題を投げ掛けた。

 一つは、避難所で生活する人たちによる自主的な運営がなされなかったとの反省だ。それは、その先にある生活再建に向けた被災者の自立を難しくする、という問題もはらんでいる。

 「避難所の規模があまりに大きく、自主という視点での運営は難しかった」。YMCAの関係者は口をそろえる。

 山根さんはさらに別の要因を指摘する。「既存の地縁組織の力が強くなかった上、避難者の4割が高齢者だった。一方で共働きの世帯が多く、日中の避難所は極端に人が少なかった」

覚悟


 少子高齢化や核家族化が進み、地域の災害対応力が弱まっているとも指摘される中で、互いに支え合いながら苦難を乗り切れるか。スタッフの約半数が被災する厳しい状況ながら高い評価を得た熊本YMCAだが、その献身は指定管理者が災害時に避難所運営で前面に立つべきかどうか、という問題もクローズアップさせた。

 900を超える指定管理者施設がある横浜市は、管理者と災害時の協力協定を結んでいるが、「避難者を受け入れるにしても一時的なもの」と捉えている。市は指定避難所である小中学校に「落ち着いた段階で誘導する」ことを基本に据えるが、「そのときの状況に応じた判断になる」ともみている。

 熊本では、行政の直営か指定管理かに関係なく、避難者が公共施設に殺到し、指定避難所ではない大学や特別養護老人ホームなどにも大勢が逃げ込んだ。繰り返す余震への不安から自宅に戻りたくないという被災者が多く、そうした施設が協力しなければ急場をしのげないという現実があった。

 「熊本では70カ所以上の指定管理者施設が避難所となったが、行政との連絡がほとんど取れなかったところもある」。関連の社会福祉法人とともに県内で7カ所の施設を指定管理する横浜YMCAの田口努総主事は、今月16日の報告会をこう締めくくった。「公共の一端を担う覚悟で運営したところが数多くあったが、一方で指定管理者に委ねられてばかりでは困るとの指摘もある。こうした熊本からの声を受け止めつつ、今、私たちに何ができるかを考えていきたい」 


避難所の状況を説明する熊本YMCAの大塚さん=16日、横浜中央YMCA
避難所の状況を説明する熊本YMCAの大塚さん=16日、横浜中央YMCA

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