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津波そのとき 震災2年〈7〉防波堤 整備めぐり思い交錯

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神奈川新聞  2004年06月06日公開  

 必死に張り上げた声を記録した3・11の映像が、動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開されている。「こらぁ自転車、津波来てっぞ」「早く上がれ」。撮影場所は、宮古湾の河口に近い岩手県宮古市役所5階。叫んだ男たちの目の前を流れる川は徐々に水かさを増していた。

 撮影した市職員伊東真さんは振り返る。「海に向かって自転車をこいでいた女性は堤防に遮られて川の様子が見えず、危険な状況を理解していなかった。叫び声に気付いて方向を変えたが、助かっただろうか」。その後、黒い水が一気に堤防を乗り越え、市役所の周囲は押し流されてきた船や車で埋まった。

 この映像を何度も見た被災者の男性は思いを強くする。「堤防や防波堤なんてない方がいい。津波を防ぐどころか、見えなくするだけじゃないか」

 過去の教訓を基に三陸沿岸に造られていた構造物は、巨大津波で次々と決壊した。同市田老地区では「万里の長城」と形容された二重の防潮堤が津波を食い止められず、世界最深としてギネス記録に認定されていた釜石市の湾口防波堤も無残な姿をさらした。

 あれから2年。再来に備える「津波防災のまちづくり」が各地で動きだしている。だが、防波堤や防潮堤の整備をめぐる思いは、自治体と住民の間で、時に住民同士でもすれ違う。

 釜石の防波堤について国は「津波高を4割、遡上高を5割低減し、浸水を6分遅らせた」と総括。「千年に一度の津波は防げないが、避難の時間を稼ぐ効果はある」として、引き続き海岸構造物を津波防災の柱の一つに据える。視界を遮るような高さとはせずに倒れにくくする工法、複数の構造物を組み合わせて効果を高める手法などが研究されている。

 東海地震に備えるため、対策が必要な海岸線(約280キロ)の9割で堤防などを整備済みの静岡県は、より高い津波が短時間で押し寄せるとの新想定に危機感を強める。震災後に県民を対象に行った意識調査では、防潮堤や水門の整備を望む声は2割にとどまったが、県は今後かさ上げの必要性を見極める。

 既に堤防や保安林が延びている浜松市沿岸では、さらに高くしてほしいと地元工務店が300億円の寄付を県に申し出た。県は約17・5キロにわたって保安林のかさ上げを行う予定で、新年度から試験的に着手する方針だ。

 一方、千葉県最大の被害に見舞われた旭市は、一部の沿岸にあった林に津波を低減する効果があったと着目。海岸に盛り土をした上で植林する「海岸減災林」事業に乗り出している。

 神奈川ではこの2年間で避難対策こそ急速に進んだが、防波堤などハードのあり方を見直す作業は緒に就いたばかり。宅地が海に迫り、全国有数のコンビナートも立地する中、少しでも浸水被害を減らし、命だけでなく、暮らしを守ることができるのか。現実味を増した最大級の津波のリスクは、新たな難題を突き付けている。


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