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津波そのとき 震災2年〈5〉東京湾 リスクの伝え方模索

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神奈川新聞  2004年06月06日公開  

 死者5816人。川崎市が2月に公表した試算結果に、他の沿岸自治体の防災担当者は驚いた。最大級の津波をもたらすと県が位置付けた「慶長型地震」による想定死者数は、1995年に起きた阪神大震災の犠牲者数(約6400人)に迫るものだった。

 東京湾に押し寄せる津波は相模湾と比べて低く、到達時間も遅くなると考えられている。県の浸水予測でも、川崎の最大波は3・7メートルと他の沿岸市町を下回り、到達も地震から1時間半以上後となる。

 湾口に近く川崎より予想波高が高い横浜市でさえ、同じ慶長型の死者数を見積もった結果は595人。単純な数字の比較では、川崎の10分の1にとどまる。

 想定が大きく異なった理由は、計算時に設定した前提条件の違いにある。川崎は浸水深(浸水時の水位)50センチ以上と予想された範囲の低層階に住む住民らが1人も避難しなかった場合を算定。一方、横浜は浸水深1メートル以上を対象に、すぐに避難した人や用事を済ませてから逃げた人などの割合を加味した。

 避難行動に対する住民の意識格差などの課題が浮かんだ東日本大震災の教訓をわがまちの対策にどう生かすのか。独自に被害想定を行った川崎や横浜の狙いが住民の意識向上にある点は共通しているが、説得力のある注意喚起の方法は定まっておらず、国や自治体は手探りを続ける。

 死者・不明者が千人以上に上った岩手県釜石市で、3千人近い小中学生が主体的に高台へ逃れ、自らの命を守った「釜石の奇跡」。そのきっかけとなる防災教育を主導した群馬大大学院の片田敏孝教授はむしろ「想定にとらわれない行動」の大切さを強調する。

 さらに「想定の数字が大きくなっても、自然や地球の営みは何も変わっていない。海辺にいるなら、津波のときはより高い場所を目指して避難に最善を尽くす。それしかない」と指摘。不可避な自然災害に対する心構えとして、こう呼び掛ける。「地域のリスクにきちんと向き合い、自分の命は自分で守る意識を。決して行政任せにしないで」

 東京湾奥に位置し、荒川や江戸川に囲まれた東京都江戸川区。最大級でも波高は2メートル程度の予想で、津波の危険性は低い。が、陸域の7割を占める「ゼロメートル地帯」が不安の種だ。

 地震で堤防が倒壊し、そこに高潮や洪水が重なったら-。区が取り組み始めたのは「複合災害」への備え。70万人に迫る区民に対応できる避難施設はなく、千葉を含めた周辺市区への広域避難を探っている。「江戸川に住む以上、水に沈むまちとの自覚が不可欠。区民には早い段階で区外へ脱出するという、主体性のある防災意識を持ってもらうしかない」。区の担当者は「それが江戸川で震災の教訓を生かす道」と思っている。

◆横浜、川崎の津波被害想定

最大波 横浜4.9メートル 川崎3.7メートル

浸水面積 横浜36平方キロ 川崎18.3平方キロ

死者 横浜595人 川崎5816人

影響人数 横浜約13万人 川崎約15万人

※いずれも慶長型地震の場合。川崎の影響人数は要避難対象者として示されている数字


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