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障害者殺傷事件考
時代の正体〈460〉重度障害者の意思疎通 「特別視」せず声聞いて ALS当事者 岡部 宏生さん

時代の正体 神奈川新聞  2017年04月05日 15:07

五十音が記された文字盤を視線で示すことで言葉を紡ぎ、介助者の通訳を通じて記者の質問に答える岡部さん=東京都江東区
五十音が記された文字盤を視線で示すことで言葉を紡ぎ、介助者の通訳を通じて記者の質問に答える岡部さん=東京都江東区

【時代の正体取材班=草山 歩】「私たちの病気でも、コミュニケーションが難しい患者さんの場合、本人に話を聞きたくても全て家族が答えてしまうことが珍しくないので、いつもどうしたら良いか悩んでいます。教えてほしいくらいです」。岡部宏生さん(59)が通訳を介して語る。進行性の難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の当事者。昨年5月、参考人として国会に招かれたが、「やりとりに時間がかかる」などの理由で出席を拒否された。障害の重さや意思疎通の難易度を理由に、本人たちの声が届きづらい現実をどう見るか-。自宅を訪ねた。

 東京スカイツリーを眺望できる東京都江東区のマンション。岡部さんは通訳介助の女性ヘルパーを通して語りだした。

 「私は、国会という場で、コミュニケーションの障害を理由として、出席を、拒まれました」

 全身が動かず呼吸器を使っていることもあり、発声することができない。代わりに意思疎通の手段として、五十音をひらがなで記した透明の文字盤を目線で追う方法か、口や目のわずかな動きでヘルパーが呼び掛ける「あ、か、さ、た、な」…との声に反応して言葉を伝える「口文字」を使う。読み取った文章は通訳のヘルパーが口述で相手に伝える。いずれも一文字ずつ確認するため口話より時間はかかるが、受け答えは問題なく行える。

 昨夏、日本ALS協会の会長に就任。国内外のイベントや集会に車いすで参加し、患者の立場で積極的な啓発活動を続けており、通訳を介して人前で発言することには慣れている。取材時も「どれだけ的確にお答えできるか分かりませんが…」「気をつけてお帰りください。取材頑張ってくださいね」と、穏やかな人柄を感じられるような言葉で記者に語り掛けた。

不信感


 2016年5月、障害者総合支援法の改正案を審議する衆院厚生労働委員会の参考人質疑に呼ばれた。だが、直前に議員側から「やりとりに時間がかかる」といった意見が出たことで招致を取り消された。

 「私たちが生きる姿を知ってもらいたい」との一心で国会招致を快諾していた。だからこそ突然の拒否は寝耳に水だった。当日は日本ALS協会の幹部が、メッセージを代読した。

 〈国会の場はまさに国民の貴重な時間と費用の極みだと認識しています。その中には私たち障害者も存在しています。国会の、それも福祉に関する最も理解をしてくださるはずの厚生労働委員会において、障害があることで排除されたことは、深刻なこの国のありさまを示しているのではないでしょうか〉

 テレビや新聞などで経緯が報道され、多数の批判が湧き起こったことで、約半月後の参院厚生労働委に改めて招かれた岡部さんは、口文字で発言した。

 しかし、当時の不信感は今も拭えない。



 「コミュニケーション障害が差別されたということは、紛れもない事実。そのことを考えたときに、いかに重度障害者が社会的に特殊な存在としてしか認識されていないのか、浮き彫りになりました」

考える


 重度障害者との意思疎通が困難なとき、当事者の親族でつくる「家族会」が代弁者となることが多々ある。障害者殺傷事件があった津久井やまゆり園(相模原市緑区)の再建問題も、例外ではない。

 施設の建て替えを巡り、「入所者本人の意見が計画に反映されていないのでは」と有識者や障害者が意見する場面。こうした状況には、岡部さんも難しさを感じている。

 「当事者の意見も家族の意見も、どっちも必要。どちらかに偏って意見を聞かないよう配慮する必要があります」

 親族や支援者だけでなく社会全体が、障害者それぞれの意思や生き方を尊重してほしい。だから迷う。

 「私たちの病気でも、コミュニケーションが難しい患者さんの場合、本人に話を聞きたくても全て家族が答えてしまうことが珍しくないので、いつもどうしたら良いか悩んでいます。障害があるからといって本人が萎縮して発言を躊躇(ちゅうちょ)したり、周囲の人がそうした空気をつくったりすることがないよう、私は声を上げています」

 声を集めるときは、その人に合った方法を見つけてほしい。とはいえ、障害の種別や程度が違う以上、どうしたらいいかは分からない。


 難しいからと目を背けず、考えるのをやめないことしか、声を聞く道はない。

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