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問われる高齢者運転 港南・小1死亡事故不起訴

社会 神奈川新聞  2017年04月01日 02:00

横浜市港南区大久保1丁目の事故現場
横浜市港南区大久保1丁目の事故現場

被害者家族「あしき前例」懸念


 横浜市港南区で昨年10月、小学生の列に軽トラックが突っ込み8人が死傷した事故で、運転手の男性(88)が不起訴処分となった。「認知症の高齢者が起こした事故のあしき前例となるのではないか。どう受け止めればよいのか分からない」-。けがを負った小学生の父親は神奈川新聞社の取材に応じ、やるせない思いを吐露した。

 男性が丸一日にわたって徘徊(はいかい)し続けていた間、他の車と接触し、身内とも携帯電話でやりとりしていたことなどについて、父親は「90歳近い高齢者が一日中帰って来ないのに、なぜ警察に連絡しなかったのか。事故も起こしている。誰かが異変に気付き、途中で(運転を)止められなかったのか」と疑問を抱く。

 事故から約5カ月。これまで県警や地検から事故の詳細や捜査の進捗(しんちょく)についてほとんど知らされてこなかったといい、今回の処分結果について「不起訴だろうと思っていた。予想通りで驚きも何もない」と明かす。

 高齢者が引き起こす交通事故は後を絶たず、75歳以上のドライバーへの認知症チェックが3月から強化された。だが、さらに高齢化が進む「自動車大国」の日本で事故防止にどれだけの効果があるのか。「法律が追いついておらず、後手後手になっている。時代に伴って変化していかないと対応できなくなる」

 表情には諦めの色が濃い。「もう日本の法律では限界だと思う。何も過剰な期待はしない。事故はもらい損。自分の身は自分で守らなければ」

遺族コメント


 亡くなった男児の父親が、弁護士を通じてコメントを発表した。コメント全文は次の通り。(原文のまま)
                ◇
 最愛の息子との突然の別れから5ケ月が過ぎました。2016年10月28日朝、家の前で私とキャッチボールの練習をし、いつも通り小学校に送り出した息子がほんの数分後に天国へ旅立つとは夢にも思いませんでした。

 高齢者ドライバーによる事故に巻き込まれ、たった六年の短い生涯を終えた息子の無念は筆舌に尽くし難いものがあります。小学校に入学し、新しい習い事にもチャレンジをし、これからの希望に満ち溢れた人生の全てを一瞬にして奪い去られ、更にその運転手の罪を問うことが出来ないという判断は到底納得のできるものではありません。

 息子の死を無駄にしないためにも、高齢者ドライバーに対する厳格な規制作り、運転免許証自主返納制度の認知向上、またそれに伴う社会全体の高齢者に対する生活支援の強化を強く望みます。また自動車開発メーカーに対しては、衝突防止技術等の安全機能の更なる技術開発と早期の標準装備化を望みます。

 息子の事故報道がきっかけで、交通安全に対する意識が向上し、同じような痛ましい事故が二度と起きないよう切に願っております。

 最後になりますが、息子を想ってくださり、日頃より我々家族を励まし続けてくださる全ての方に感謝いたします。

高齢で事故の確率上昇


 全国で相次ぐ高齢ドライバーによる交通事故。横浜市立市民病院(保土ケ谷区)の山口滋紀・神経内科部長は「たとえ運転できていても認知機能に問題があれば注意力は散漫になるし、年齢を重ねることで体の機能が衰え、事故を起こす確率は高くなる」と注意を呼び掛ける。

 山口医師によると、認知症の原因は加齢や遺伝性、脳の血管障害などがあり、誰にでも起こりうる。▽アルツハイマー型▽脳血管性▽レビー小体型-などのタイプに分かれ、症状も「物忘れ」や「幻視」などタイプによって異なる。

 運転には総合的な機能が問われるため、認知機能に問題がある場合は運転しないように強調。「道が分からなくなり、帰宅できなくなることもある。運転していて何をするために、どこへ行こうとしているか忘れる可能性もある」と、車での徘徊(はいかい)の危険性を指摘する。

 車で徘徊した場合は(1)迷って動けなくなる(2)高速道路を逆走するなどして事故を起こす(3)燃料がなくなって動けなくなる-などが想定されるといい、「高齢者はベテランなので運転に自信を持っている人も多いが、事故を起こす確率が高くなっている。目や耳が悪くなっても本人が取り繕い、周囲に気付かれていないケースもある」と注意喚起する。

 3月12日施行の改正道路交通法で、認知機能検査の結果によって医師の診断を義務づけるなど75歳以上のドライバーに対する認知症のチェックが強化された。

 山口医師は「明らかに運転させられないレベルであれば分かりやすいが、微妙なレベルの人も多い。軽度の患者から仕事や生活の足を奪うことにもなりかねない」と診断の難しさを指摘。車を利用しなくても買い物や通院など日常生活が問題なく送れるようにインフラを整備することが重要と説く。

 家族のサポートについても「車庫にぶつけるなど、(認知症で)運転が乱暴になったというのはよくあるケース。周囲の『気付き』が大事」と話している。


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