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鉄道コラム前照灯(129) 暴走鼻眼鏡のもう片方(上)

神奈川新聞  2012年07月20日 12:00

内田百閒「第三阿房列車」収録の「房総鼻眼鏡」の旅を再びたどろうと思う。前回は3月。千葉を起点に総武本線で銚子まで、銚子電鉄で犬吠埼に足を延ばし、銚子に引き返して成田線で千葉に戻った。これで鼻眼鏡の片方が完成した

▼百閒先生が2日間かけた片目を特急も利用して1日で乗り倒したので「暴走鼻眼鏡」と名付けた。さて、もう片方の旅に出掛ける。やはり千葉を起点に内房線(当時は房総西線)で安房鴨川へ。同駅から外房線(同、房総東線)で千葉へ戻る予定だ

▼改良工事中の千葉駅で特急「新宿さざなみ号」に乗車。梅雨が明けていないが、始発・新宿からのレジャー客で7割程度の乗車率だ。進行方向右側に座れたが、なかなか海が見えない。と、木更津を過ぎ、君津駅のそばに見えたのが居酒屋「お富さん」の看板。ツボに入るとはこのことか、一人笑いをかみ殺す

▼歌舞伎の「与話情浮名横櫛」(よわなさけ うきなの よこぐし)の名せりふにある。「しがねぇ恋の情けが仇(あだ) 命の綱の切れたのを どう取り留めてか 木更津から」。与三郎がお富を見初めたのが木更津海岸だった。この演目を下敷きにした歌謡曲「お富さん」は春日八郎が歌い、大ヒットした。居酒屋の店名とは付けも付けたり、などとウケているうちに浜金谷を通過。東京湾を挟み、横須賀が近い。猿島や火力発電所が指呼の間である。特急は館山止まり。各停に乗り換え、和田浦駅に鎮座したクジラの頭の骨などを見つつ、安房鴨川に着く。(N)

【神奈川新聞】


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