1. ホーム
  2. 時代の正体
  3. 時代の正体〈457〉尊厳守るため不許可を 「ヘイト講演」問題

記者の視点=石橋 学
時代の正体〈457〉尊厳守るため不許可を 「ヘイト講演」問題

時代の正体 神奈川新聞  2017年03月22日 10:07

多くの市民が抗議に集まった2016年6月5日のデモ=川崎市中原区
多くの市民が抗議に集まった2016年6月5日のデモ=川崎市中原区

【時代の正体取材班=石橋 学】極右政治団体「日本第一党」最高顧問で人種差別・排外主義の代表的唱道者である瀬戸弘幸氏が25日、川崎市中原区の市総合自治会館で講演会を計画している。瀬戸氏の言動から当日も差別の扇動を行う可能性が高い。川崎市などは慎重姿勢だが、私は施設の使用許可を直ちに取り消すべきだと考える。人権侵害を食い止めるためであり、瀬戸氏が発するメッセージはすでに被害を生じさせているからだ。

 差別をする者ほど自分は差別などしていないと強弁する。今回「ヘイトスピーチと表現の自由」と銘打った講演会の企画こそが、その欺瞞(ぎまん)の典型である。

 瀬戸氏は昨年6月5日、ヘイトスピーチ常習者が主催したデモが市民の抗議によって中止となった件を「言論弾圧」と訴え、川崎市が取り組むヘイトスピーチ規制を含む人権擁護条例の制定阻止を「今年最大の闘争」と公言する。講演会の意図はだから差別の正当化であろう。それが証拠に講演会開催へ批判が寄せられても、ブログで「ヘイトなどとは関係ない言論の自由が今脅かされているから、こちら側はどのように反撃するかを話し合うのです」と言い募るのみである。

川崎のわけ


 
 ここ川崎で講演する意図と問題は経緯を振り返ることでより明瞭になる。

 瀬戸氏も参加した昨年1月31日の「川崎発!日本浄化デモ」は在日コリアン集住地区の川崎区桜本を標的に行われ、「ゴキブリ朝鮮人は出て行け」「敵をぶち殺せ」と叫ぶものだった。川崎市の福田紀彦市長はその第3弾をうたって同年6月5日に計画されたデモの出発点となる公園の使用を認めなかった。理由は「市民の安全と尊厳を守るため」。横浜地裁川崎支部も主催者に桜本でのデモだけでなく立ち入ることまで禁じる中止命令を出した。

 直前のヘイトスピーチ解消法成立を受け、ヘイトスピーチによる取り返しのつかない人権侵害の深刻さ、確信的差別主義者の存在自体の害悪を踏まえた事前規制の判断だった。

 主催者はそれでもなお場所を中原区に変更してデモを強行した。抗議に集まった市民は数百人を数え、取り囲まれたデモ隊は10メートル進んで身動きができなくなった。「続行は危険」という県警の状況説明に主催者が自らデモ中止を決めた。

 それが顛末(てんまつ)であるのに、言論弾圧-権力者が圧力を加えて権力批判を封じる不当な振る舞い-と主張する倒錯、あるいは故意の誤用。そもそもヘイトスピーチは人権侵害であり、憲法が保障する表現の自由の範囲外であることは数々の司法判断や法務省による勧告が示す通りだ。6月5日のデモでは「超汚染塵」「超賤神」という侮辱がプラカードで示され、参加者からは「朝鮮人は恥知らずだ」という声が上がった。中止になったことで尊厳はぎりぎり守られ、差別主義者が求める「差別をする自由」は、守られるべき人権の前に否定されたのだった。

 中止の最終的な判断は瀬戸氏が主催者に「きょうは解散したほうがいいよ」と促した結果でもある。にもかかわらず、その本人が「弾圧」の被害者を装う姿にデマを用いてでも敵を仕立て、排斥と迫害をあおる差別主義者の常とう手段を見ることができる。

被害すでに

 
 1970年代にナチズムに傾倒し、差別・排外主義を唱え続ける瀬戸氏はヘイトデモの一参加者というだけでなく、自らは醜悪な言葉を用いなくとも、過激な言葉を叫ぶ人材を掘り起こし、街中のデモに送り出してきた中心人物だ。

 その扇動効果を物語る事件がある。昨年3月20日、瀬戸氏は川崎駅前で北朝鮮を非難する名目で行われた街宣活動でマイクを握った。その直後、街宣参加者の暴力団組員がヘイトスピーチに反対する市民に殴り掛かり、けがを負わせた。あおられた差別感情は暴力までも誘発する。問題は言葉遣いではなく、どのような立場の人物がどのような文脈で語り、どのような効果をもたらしているかに本質があるということを示す実例でもあった。

 瀬戸氏は2月に結党大会が開かれた日本第一党の最高顧問にも就く。外国人への生活保護廃止など人種差別政策を打ち出す極右政治団体の要職にある人物が参加を呼び掛ける講演会に、日本浄化デモの記憶も新しい被害者が不安と恐怖をかき立てられずにどうしていられよう。

 ブログでは日本浄化デモ第3弾の参加者のうち15人ほどが講演会に申し込んだと伝えられている。予告に触れただけで心の傷がこじ開けられ、それが公的施設で認められているという事実が絶望を深めさせ、当日は会場の会館に近づけないという実害も生じる。

差別の加担 



 瀬戸氏が「ヘイトスピーチをする」と表明していない以上、許可取り消しには根拠に乏しいというのが川崎市と、市から貸与された会館を管理運営する市市民自治財団の見解だ。

 だが、反省も謝罪も「ヘイトスピーチはしない」との表明もない以上、市民が不安を訴えるのは当然で、抑止のための事前の働き掛けはなされるべきだと私は考える。

 さらに、すでに被害が生じているとしたら、対処は当然より踏み込んだものにならなければならない。被害とは、ヘイトデモの反対運動に取り組む在日コリアン3世の崔(チェ)江以子(カンイヂャ)さん(43)に対するインターネット上の攻撃である。会館の使用許可を取り消してほしい、少なくともヘイトスピーチはしないという約束を事前に取り付けてほしいと訴える崔さんの発言を紹介した本紙報道を引用し、瀬戸氏はブログに書いた。

 〈しかし、この人の言葉は看過できないね。これ以上踏み込んだ発言したら法的な対応も考えなければならない〉

 やはり自らの言動を顧みることなく、敵視さえする瀬戸氏に呼応するようにツイッターの書き込みが始まる。

 あるツイッターは崔さんの名前と顔写真、生活圏の地域をさらし、「反日極左活動家」と誹謗(ひぼう)中傷を加える。

 〈政治団体「日本第一党」瀬戸弘幸最高顧問の川崎市での講演会を妨害し言論弾圧を画策 憲法21条に明白に違反する不逞(ふてい)鮮人による暴挙〉

 差別をさせないでという当たり前の権利主張かつ切実な願いを「言論弾圧」とみなす錯誤、朝鮮人を敵視し関東大震災における虐殺を正当化した「不逞鮮人」という差別語を用いて表現の自由を唱える倒錯は、いずれも瀬戸氏の言説をなぞったものだ。

 別のアカウントは迫害を呼び掛け、殺害の実行まで想起させる。

 〈川崎桜本の崔何某とか、早くとっ捕まえて本国に送り返してほしい。そして二度と入国出来ないようにして欲しい〉

 〈クソ崔 死ね崔…とかの在日なんて手までだしてくるヘイトなのに日本は在日に殺され放題〉

 「在日なんて手までだしてくる」という瀬戸氏が流布するデマに基づく「殺され放題」の妄想。その発想は「だから殺し返してよい」と表裏をなす。ツイッターでの言動は講演会当日に何が起こるのかを暗示するだけでなく、もはやすでに事が起きていることを示している。

 20日のブログも、自分たちはデモで暴力を振るわれた被害者で、それが正当な主張であることを装いながら、差別をあおることを忘れない。

 〈今回の時局講演会ではこの点を再確認して、それを改めて日本人側が今後どのように働きかけて行くべきなのか? その事が今回の講演会の目的であり、それ以外にはあり得ない。在日勢力が抗議しているようだが、筋違いも甚だしい、むしろやって来て我々に暴行を働いたことを詫びるべきだろう〉

 在日コリアンを犯罪者という敵に見立てる、これ以上ない侮蔑。意図はいよいよ明らかだ。崔さんの勤務先には「朝鮮人は朝鮮に帰れ」という脅しの電話までかかってきている。インターネット上にとどまらず現実社会での行動にエスカレートしているという事実は重大だ。公的機関がそれにお墨付きを与え、加担しているという現実に向き合うときだ。

この記事は有料会員限定です。

月額980円で有料記事読み放題/100円で24時間読み放題のコースも。詳しくはこちら


シェアする