逗子ストーカー殺人6年 犠牲者の兄が対策専門書刊行へ|カナロコ|神奈川新聞ニュース

逗子ストーカー殺人6年 犠牲者の兄が対策専門書刊行へ

自身が執筆した原稿を手元に思いを語る三好梨絵さんの兄

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 逗子市の三好梨絵さん=当時(33)=が元交際相手の男=同(40)=に殺害されたストーカー殺人事件は発生から6日で6年。梨絵さんの兄で大学教員の男性(47)が、研究者らとストーカー対策をまとめた専門書を近く出版する。「“次の被害者”を一人でも多く救いたい」。あの日守ることができなかった亡き妹への思いが、形になろうとしている。

 澄んだ秋空が広がった10月下旬の日曜日。7回忌の法要のため、梨絵さんの兄は高齢の両親を連れ、県内にある寺院に足を運んだ。海が近く、木々に囲まれた自然豊かな場所。静寂に包まれたその一角に、最愛の妹が眠っている。

 墓前に色とりどりの花と線香を手向け、その脇に大好きだったコーヒーを添える。手を合わせ、静かに目を閉じ、心の中で感謝の気持ちをそっと伝えた。「梨絵のおかげで、みんな幸せにやっているよ」

 兄は九州地方で大学教員として「地域防犯」を専門に研究している。8歳違いの梨絵さんは3人きょうだいの末っ子。小さい頃はよく風呂に入れ、大学受験の時には勉強を教えた。事件の少し前には湘南地域のカフェを一緒に巡った。

 「かわいい娘であり、彼女であり、一卵性双生児のような存在だった」。見るもの触れるものすべてに妹との思い出が詰まっており、ふとした瞬間に悲しみと喪失感に襲われる。「世の中、地雷だらけです」

 あの日、妹のそばにいて助けてやれていたら。代われるなら代わりたい-。そんな思いが今も消えない。

 2012年11月6日。梨絵さんを失った日の記憶はすっぽり抜け落ちている。元交際相手の男は犯行直後に自殺し、事件後は感情をぶつける先がなく悶々とする日々。精神的に不安定になり、見てもいない殺害現場の光景が何度も頭に浮かんだ。

 どうしたら妹を救えたのか。兄として、研究者として、その答えを探し続けてきた6年間だった。

 13年9月以降、犯罪心理学や刑法などの本を読みあさり、専門家に話を聞くために全国を飛び回った。そんな中で芽生えたのが「遺族という立場だからこそ、発信できることがあるかもしれない」という思いだった。

 逗子の事件では有罪判決が出た後、男のストーカー行為がエスカレートした。「警察の取り締まりや厳罰化だけでは限界がある。加害者の心を変えない限り、被害者を救うことはできない」。苦悩の末にたどり着いた結論だった。

 そして14年11月。臨床心理学の研究者や大学教授らとともに「ストーカー対策研究会議」を立ち上げた。遺族として精神的負担が大きい元ストーカー加害者とも面会した。加害者を治療する難しさを痛感する一方、その有効性に確かな手応えを感じた。

 加害者プログラムに取り組む刑務所での活動に参加した時のこと。ストーカー行為で実刑判決を受けた男性受刑者が「自分こそが被害者だと思っていたが、プログラムに参加して初めて自分の犯した罪に向き合うことができた」と話してくれた。

 こうした経験から、専門書に執筆した原稿には「判決で加害者プログラムの受講を義務付けることが望ましい」と書き記した。刑務所や執行猶予付き判決後の保護観察段階での受講も提言し、「(逗子の事件も)異なる結果になっていたかもしれない」と自らの感想を付け加えた。

 研究会議に参加した専門家ら約20人の意見をまとめた「ストーキングの現状と対策(仮題)」は今月末をめどに成文堂(東京)から刊行される予定だ。「日本で初めての本格的なストーカー対策の専門書。悲惨な事件を繰り返さないために、研究や議論が深まるきっかけになれば」と願う。

 遺族としての活動に一区切りをつけ、この秋からは本来の研究に本腰を入れる。兄は手元の原稿に視線を落とし、静かに言った。「“次の被害者”をどうすれば一人でも多く救えるか。これは妹への報告書です」

 お兄ちゃん、頑張ったね-。きっと、そう思っていてくれるはずだ。

 ◆逗子ストーカー殺人事件 2012年11月6日、逗子市の三好梨絵(みよし・りえ)さん=当時(33)=が元交際相手の男=同(40)=に自宅アパートで殺害され、男も自殺した。男は11年6月に脅迫容疑で県警に逮捕され、同年9月に執行猶予付きの有罪判決を受けていた。逮捕の際、三好さんから明らかにしないよう求められていた結婚後の姓などを県警が読み上げる不手際があった。男は大量のメールを送り付けており、事件を機にストーカー規制法が初めて改正され、執拗(しつよう)なメール送信が付きまとい行為に加わった。


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