神奈川新聞と戦争(62)1933年 毒ガスの恐怖を強調|カナロコ|神奈川新聞ニュース

神奈川新聞と戦争(62)1933年 毒ガスの恐怖を強調

毒ガスの脅威を解説した1933年8月10日付の横浜貿易新報の家庭欄

 毒ガスを模した訓練用の煙を新生児が吸い込み、一時重体となった。空襲への備えを目的とした関東防空大演習の裏で起こった不慮の事故。1933年8月10日の横浜貿易新報(本紙の前身)は「毒ガスの猛威」と見出しを付けた。

 赤ん坊の災難を伝える記事としては的外れだが、実はこれこそ、政府が演習で国民に知らしめたことだった。記事は事故に乗じ、空襲の恐怖を植え付けた。

 同じ日の家庭欄には「恐しい毒ガス 生理的の影響 非常時の常識として心得置くべきこと」と題した記事が掲載された。

 「一般に毒ガスとは人畜に損傷を与へる事を目的として、戦場に於(おい)て用ひるガス体、液体又(また)は小さい粒子等一切の化学物質の総称であります」との説明に始まり、本格的に使用された第1次大戦の状況を詳述。

 「欧州大戦が始まつて二年目の一九一五年四月二十二日に西部戦線イーブルの独軍陣地で黄白色の不透明な霧のやうなものが風のマニマニ地を覆ふて連合軍の陣地を包んでしまつたそれが独軍の始めて使つた毒ガスであります。その為(ため)に戦が僅(わず)か三十分で英仏軍に中毒者が一万五千人、捕虜二千五百人に及んだとの事で、如何(いか)に毒ガスが恐ろしいか、これでも解ります」

 黄白色の霧が風に乗って地を覆う-。恐ろしさをかき立てる不気味な記述だ。続いて、呼吸器を侵し窒息させる塩素やホスゲン、皮膚を侵すイペリットやルイサイト、目の粘膜を刺激する塩化アセトフェノン…と20行にわたり、その種類と毒性が説明された。

 記事の結びは、次のようなものだった。「神経系統及(および)血液に作用して中毒致死せしむるものは青酸、一酸化炭素でその他即効性や遅効性、一発性、半持久性、持久性などあります。殊に持久性は風の具合や地形等の関係で数日又は二週間位も効力を有する恐るべきものであります」

 読者は困る。最も知りたい対処法が書かれていないからだ。ここからも演習の狙いがうかがえるだろう。とにかく、毒ガスが「恐るべきもの」だと人々にすり込むことだった。

COMMENTS

facebook コメントの表示/非表示

PR