時代の正体〈536〉アベノミクスを問う 不安除く経済政策を|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈536〉アベノミクスを問う 不安除く経済政策を

元日銀審議委員、慶大教授・白井さゆり氏に聞く 2017衆院選

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/10/12 10:28 更新:2017/10/15 19:56
 安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」を争点に掲げ、与党が圧勝した2014年12月以来の衆院総選挙が公示された。22日の投開票に向けて戦端が開いたが、政権選択や憲法改正などと並び、この国の経済政策のあり方も大きな争点の柱だ。元日銀審議委員で慶応大学教授の白井さゆり氏に聞いた。

復活

 
 「アベノミクスはやる必要性があったし、その下で日銀が量的・質的金融緩和をやったこともよかった。それがなかったら、今の状況はなかった」

白井さゆり氏

白井さゆり氏

 白井氏がそう指摘するのは、アベノミクス以前の“惨状”を踏まえてのことだ。07年の世界金融危機に端を発し、08年の米リーマン・ショック。そして11年の東日本大震災-。過度な円高などを背景に日本経済は長い低迷のトンネルの中にあったからだ。

 「企業は超円高に相当苦しんできていて、当時の株価も実力よりずっと低かった。はっきりしているアベノミクスの成果とは円安・株高に持っていけたこと。収益環境を好転させ、大企業を中心にしながら企業の業績も復活させた」

 目下、東京五輪関連の公共投資やそれに関連した民間の投資活動などで追い風も吹き続けている。4~6月期の実質国内総生産(GDP)は11年ぶりの6四半期(1年半)連続のプラス成長に加え、内容も、0%台半ばから1%未満とされる日本経済の実力を示す潜在成長率に対し、年率換算で2・5%増となった。

 「円安に加え、東京五輪と世界経済の景気回復が、足元の景気をよくしたのは事実」と話す白井氏。では現状維持でいいのかと問うと、答えは否だ。

 「与党自身も言っているが、道半ばだ。アベノミクスは五輪とか、日銀の金融緩和による円安など、長くは続かない要因に相当助けられてもいる。それがなくなった時、元々の実力に戻る。そうならないために並行して、日本経済の底上げ、潜在成長率を上げてこなければならなかったが、それは限定的だった」

 法人企業統計によると、金融・保険業を除く全産業の2016年度の内部留保は過去最高の約406兆円に達している。

 「政府や日銀の目指していたところとは真逆で、元々たくさんあったお金がもっと余ってしまい、活用されないまま、社会で循環していない。これが負の部分。アベノミクスを始める前より余計、金余りの国になってしまった」

出口


 13年4月に始まった量的・質的金融緩和では、日銀が民間金融機関から国債を購入するなどし、供給する通貨の総量(マネタリーベース)を急拡大することを掲げ、規模の大きさから“異次元”と称された。実際、緩和前が135兆円ほどだったのが、今夏には約470兆円まで増えた。なのになぜ期待された循環は起きなかったか。

 白井氏は「企業や家計の将来に対する不安が払拭(ふっしょく)されなかったから」ときっぱり。日本の社会構造の変化も背景にあるという。

 「人口減で国内市場が縮小している。販売シェアを取り合うしかなくなり、この先も消費者は減る。従業員の高齢化に伴う社会保険料の負担増もある。そうなると、企業は積み上がった内部留保を取り崩してまで設備投資しないし、無理して人手を確保しない。将来に対して自信を持てないからだ。企業活動を縮小か、維持しようとする『成長制約』と呼ばれる現象だ。賃金は上がらず、人々は社会保障不安もあるから貯蓄する。結果、マネーは循環しない」

 アベノミクスがこうした現状にあった中、日銀は16年2月から金融機関が日銀に託す当座預金の一部にマイナス金利政策を導入する。

 「私を含め4人が反対したが、5人が賛成して上回り導入が決まった。資産買い入れをできるところまで進め、その上で導入なら論理的だった。しかし、大量の買い入れを進める中、この政策で国債の取引参加者は減り、日銀はより高く国債を買わないといけなくなった。国債の買い入れをかえって難しくし、金融緩和の限界を早めてしまった」

 そもそも、日銀の国債保有残高が400兆円を上回る現状への配慮も無視できなくなっているという。

 白井氏は「地方も合わせた日本の長期債務残高の4割に上る、すごい金額が積み上がっている。株式もそうだが、市場に入りすぎてしまったため出口に出る場合の影響が大きくなりすぎてしまっている。いかにインパクトを抑えるか、出口戦略が極めて難しい」と警鐘を鳴らす。

道筋


 アベノミクスの課題を指摘してきたが、各党にも注文をつける。

 「アベノミクスはやってよかったところもあったし、達成できなかったところもある。それに対し、対抗する各党は何らかの結論を出さないといけない。アベノミクスをきちっと検証して数値を示すべき。そして、足りないところを自分たちはどう取り組むのか、見せないといけない」

 安倍首相は解散の表明に際し、...

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