
「小暮」は、30年続く町の天ぷら屋さんだ。JR平間駅近くから延びる、平間銀座商店街。フロンターレが地域密着の一歩目を踏み出したともいえる通りだ。
「飛び込みでスタッフが来たのが1997年ごろ。それからずっとだもんね」。自分ももともとサッカー好きで、Jリーグ開幕前から試合を見に行っていた。「特に読売ヴェルディね。ラモスにカズに武田、北沢…。当時は完全なスター軍団。Jリーグ開幕で川崎をホームにしたけど、全国のチームという感じだった」。その後を受ける形となったフロンターレは、ちょっと様子が違った。
スタッフがしつこく「地域密着」と繰り返す。その足がかりとして、商店街と手を取り合いたいと。思い出したのは、欧州でのクラブのあり方だった。
「港町だったり労働者の町だったり、向こうはそうした地域の色を背景にまずクラブができて、それがだんだんと強く大きくなっていったから、地元に自然と愛されている。日本は企業チームが先だから順序が逆だけど、フロンターレは欧州のクラブみたいになろうとしてんのかなあと」
商店街は地域の核だという自負もあった。仲間と声を掛け合い応援を始めた。店舗が年会費を払い、チケットなどを受け取る「サポートショップ」の制度は、ここが走り。「最初の50店くらいの半分以上がうちらの仲間。今では800店に近づいているんだからね」。ルーキーに地元貢献のあり方やチームの方針を実感させる、「新人研修」が始まったのもここだ。
愛するクラブの挑戦は、ギャンブルや宝くじのようだと思ってきた。「ずっとJ2だった可能性だってある。今は強くなったし、代表選手もいるから、賭けには勝っていることになるんだろうけど、ずっとこれが続くわけでもないはず」
少し置き、でもね、と接ぎ穂する。「もしフロンターレが弱くなってJ2に落ちても、平間は見捨てないよ」。大当たりしなくてもかまわない。手元にあるだけで何か起きるかもとドキドキして、成長を見守る親のような温かい気持ちにもなれる。そんな宝のようなくじであり続けてほしい。
=隔週木曜掲載