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2019年11月の記事から
【ウェブ版解説】文化が社会をあらわし、新聞の格を決める

ジャーナリズム時評 | 神奈川新聞 | 2019年12月18日(水) 02:00

 古今東西、新聞(ニュースペーパー)は報道対象によって面(ページ)を分けてきた。現在の日本の新聞では一般に、政治、経済、社会、国際、スポーツ、オピニオン、そして文化の各面が基本パターンだ(新聞の欄外上に表記されており、神奈川新聞での白抜きの囲みだ)。これらのいわば派生として、地域面(社会面からより詳細な地域割りをしたもの)や証券・商況面(経済面のなかの特化した一分野)、ラジオ・テレビ番組表を載せるラテ面(神奈川新聞では、最終ページのテレビ面と、中ページで詳しい番組内容を紹介する番組面)があるといえるだろう。

 また、最初の面からいくつかは、総合面という言い方で、その日の主たるニュースを扱うのもお決まりのパターンといえる。前述のオピニオン面の定番は読者からの投稿で、海外では編集長からの回答や意見が掲載されるが、日本では「社説」という独特なコーナーが存在する。神奈川新聞の場合は、読者・意見面では、一般的な読者投稿と長めの識者の寄稿(「識者評論」)を掲載、別建てで、論説・特報面を置いて、社説や記者の個人的な見解を含むようなテーマ性を有した記事が掲載される。

 そして、こうした基本報道対象から派生する形で、時代に応じてさまざまな面が作られてきた。以前の呼び方で言えば家庭面あるいは婦人面と呼ばれる、専業主婦を主要なターゲットとしたページが、多くの新聞で固定的に存在した。その後、これらのページは「くらし・生活面」などという名称に代わり、内容でも変貌を遂げている。さらに関連して、「医療・健康面」といった日常の病気や生活上の工夫などを扱うページも増えた。また、教育面と呼ばれる、子どもの学校教育を中核に据えたページは、受験戦争が始まったころからの定番であった。そのほか科学面といった名称で、テクノロジーを含むいわばサイエンスを専門に扱った面を持つ社も少なくない。

 では文化面とはどんなページか。海外では「カルチャー面」との呼称が一般的で、主としてファッションや文学・音楽・舞台・映画・美術などの文字通り文化・芸術のコンテンツの最新事情を紹介し、批評する内容だ。神奈川新聞でもこれに該当する、日曜日掲載の書評欄や、各種批評欄が存在するし、各種芸術関係の催し紹介の記事も多い。また、先に触れた番組面もその1つに数えることができよう。各地の新聞を見渡すと、ずばり文化面という名称で、歴史・文化・地域芸能などに関する重厚な外部寄稿や連載などを有する新聞も少なくない。そしてこの文化面ほど、社によって内容が千差万別、特徴が表れるページはないと思われる。

 こうした各「面」が何を意味するかだが、その社ごとの主たる報道テーマを意味するし、それは取材態勢にも直結するものだ。新聞社の場合、一般には報道対象ごとに違ったセクションを有し、それが各面の名称にも対応している。政治面=政治部、経済面=経済部、社会面=社会部……である。神奈川新聞の場合など地方紙の場合は、政治部や社会部をまとめて報道部とするか、政治部と経済部を合わせて政経部といったセクションをもつのが一般的だ(神奈川新聞は、報道部と経済部)。そしてこのほかに、運動部と文化部が設置され、こうした取材対象に合わせて人が配置され、毎日の原稿が執筆されているということになる(このように原稿を出す部署であることから、出稿部と呼ばれる)。

 こうした分野別の出稿態勢を擁するのは、総合的な内容の紙面を作るため、多様な報道対象を満遍なくカバーし、しかも日々途切れることなく取材し、読者に送り届けるための長年の経験に裏打ちされた知恵ということができる。逆に言えば、出稿部が存在する報道対象は、その社が「絶対に必要」と思っている分野であって、ほぼ間違いなく紙面化されるということだ。それからすると、神奈川新聞の場合も、文化部という名称の取材・出稿部が存在し、週2回の恒常的な文化面が存在し、批評を中心とした記事で構成されるという構造になっている。一方で、いわゆる文化関連の日々の事象を伝える記事は、社会面等に収容されることになる。

 その意味を勝手に解釈すれば、それだけ文化領域は広く、さまざまな取材対象をカバーしているということにあるし、紙面化される上では、さまざまなページにその結果が反映されていることになるといえるのだろう。実際、いまみていただいている「カナロコ」には「カルチャー」というタグ(検索目次)が存在しているが、その内容は本紙でいえば社会面や経済面に掲載の内容の記事を含む幅広いものになっている。だからこそ、先にも触れたように、「文化」で何を扱うかが、その新聞のいわば<顔>であるともいえるわけだ。たとえば、世界を代表する新聞である米ニュ-ヨーク・タイムス紙は、カルチャー(文化)面のクオリティーの高さが評判で、それこそがまさに紙面の評価そのものであるとされている。

 その意味では、文化関連記事は、その社あるいは記者のクオリティーを端的に表すものともいえ、フィーチャー記事(読み物)としてだけではなく、事件・事故と同様のストレート記事も含め、どんな内容の記事が掲載されるか社としての力量が問われていると思う。現在の神奈川新聞の文化関連記事の特徴をあえて言えば、カナロコでいえば「連載・企画」に収納されている、不定期で掲載されてきているいくつかの連載や企画ものといえるかもしれない。もちろん、こうしたより「らしい」記事が生きるためには、「カルチャー」で読める音楽・映画・美術の批評がきちんとしている必要がある。先のNY紙の例を改めてあげるまでもなく、こうした定番の(新聞における鉄板メニューである)文化モノの批評・論評が、新聞の格を決めているからである。

※詳しくは、本紙版「ジャーナリズム時評」をお読みください。

山田健太(やまだ・けんた 専修大学教授) 専修大学ジャーナリズム学科教授・学科長。専門は言論法、ジャーナリズム研究。日本ペンクラブ専務理事。主著に「沖縄報道」「法とジャーナリズム 第3版」「現代ジャーナリズム事典」(監修)「放送法と権力」「ジャーナリズムの行方」。

 
 

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