時代の正体〈508〉カウンターの思い(下)社会の在りよう問う|カナロコ|神奈川新聞ニュース

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時代の正体〈508〉カウンターの思い(下)社会の在りよう問う

  • 公開:2017/08/18 14:09 更新:2017/08/18 16:57
  • 神奈川新聞

【時代の正体取材班=石橋 学】ニュース映像に息をのんだ。人種差別に抗議する人たちの列に車が突っ込む。はね飛ばされる無数の人影。米バージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者によるヘイトクライム(憎悪犯罪)。ヘイトデモの現場で抗議のカウンターに立ってきた志田晴美(49)にとって人ごととは思えなかった。デモ主催者の津崎尚道に「帰れ」と叫んだところ「朝鮮人」と言い返され、「日本人の私も排斥の対象になるのか」と恐怖を覚えたことがあったからだ。
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 白人至上主義者を名指しで非難しなかったため批判されるトランプ米大統領に、相模原市の障害者施設で起きた大量殺傷事件後、やはり非難を表明しなかった安倍晋三首相を重ね見ながら、志田は彼我の差を思った。テリー・マコーリフ州知事の声明は公正とは何かを明確に示していた。

 「今日シャーロッツビルに来た白人至上主義者とナチに伝えることがある。とても簡単な話だ。帰れ。お前たちはこの偉大な州の一員ではない。恥を知れ。お前たちは愛国者のふりをするがそれは誤りだ。お前たちは今日人々を傷つけるためにここに来て、それを実行した。ここにもアメリカのどこにも、お前たちの居場所はない」

 帰れ、恥を知れ、居場所はない-。志田が沿道から差別主義者に浴びせてきた言葉であり、聞きたかった言葉だった。

人権を守る主体


 8月7日、川崎市役所。副市長の伊藤弘を前に「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」のメンバーが人種差別を禁止する条例を一刻も早く制定してほしいと口々に訴えた。

 「公共の空間である道路であのデモが許可され、市民の手で止めるしかなかった。私の中学3年生の子どもも抗議に行った。抗議をしたらネットで名前をさらされ、誹謗(ひぼう)中傷を受けている。彼らはブログで勝利宣言し、川崎市で自由な活動を続けると言っている。彼らの言う自由とは表現の自由ではなく、差別をする自由、差別を扇動する自由だ」

 いつ果てるとなく被害を訴え続けなければならない在日コリアン3世、崔(チェ)江以子(カンイヂャ)(44)の姿に志田は思わず涙した。「立場の弱い子どもを守るのは大人の責任。しかもわが子を守れない悔しさはいかばかりか、と」。差別をしないでと口にすれば、さらなる差別が襲い、口を閉ざせば差別され放題という、出口の見えない地獄。では、やはり立場の弱いマイノリティーを守る社会をつくるべきマジョリティーの責任は、と自らに問わずにはいられなかった。

 伊藤の答えにはだから落胆を覚えた。

 「行政として重く受け止めている。地域において差別と偏見のない社会をつくることに異存はない。規制せずに実現するのが理想だと思うが、理想と現実は大きなギャップがあるのは、皆さんが話した通りだ」

 「現実」という表現で当事者の被害を受け止め、条例の必要性は認めてはいる。だが、「異存はない」「皆さんが話した通り」という言い回しに、どこか人ごとのような響きが感じられた。

 いま、目の前で踏みにじられている人権を守る主体としての自覚が見えない-。

 それはデモの警備に当たった県警も同じだった。人権侵害を食い止めようと抗議した市民を排除しただけではなかった。ヘイトデモ首謀者の瀬戸弘幸はインターネット上の動画で「デモを成功させるため」警察とさまざまに打ち合わせた舞台裏を開陳している。事実なら差別の舞台を警察がお膳立てしたことになる。

 神奈川新聞は県警に以下の質問をした。主催者側は今回のデモの抗議者について「われわれと県警の罠(わな)にはまった」と述べているが、主催者とともに「罠にはめた」のは事実か▽瀬戸氏は出発予定地点に抗議者が多数集まっていた場合、別の地点からデモを始めることを提案し、抗議者を引き留めるため警官隊の多くを出発予定地点に留め置くことを要請したとしているが事実か▽瀬戸氏は今回のデモの一番の勝利者は県警であり、抗議者と在日コリアンについて県警は「国家を解体する敵」と認識しているとしているが事実か。

 いずれも一方の当事者が公言している以上、回答する責任がある。事実でなければ「事実ではない」と示し、デマをたださねばならない。質問状にはそう付記した。

 回答はしかし、すべての質問にわたって「回答する立場にありません」というものだった。

 〈各締約国は、いかなる個人、団体による人種差別も後援せず、擁護せず、支持しないことを約束する〉

 人種差別撤廃条約が課す義務はまったく念頭にないようだった。


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