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【カナロコ・オピニオン】(8)向き合うべきは自国民
沖縄・米軍属逮捕

  • 公開:2016/05/23 20:20 更新:2016/05/29 13:54
  • 神奈川新聞

 〈死体遺棄で米軍属逮捕は『最悪のタイミング』と日本政府 沖縄県民激怒〉
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 こう題された「まとめサイト」をインターネットで見つけたのは19日深夜だった。沖縄県うるま市の女性会社員(20)を遺棄したとして、元米海兵隊員の男が逮捕されたのはわずか数時間前である。

 「政府関係者は『オバマ米大統領の広島訪問を前に(事件は)最悪のタイミングで起きた』と困惑している」との報道があり、ネット上では政府関係者の発言に対する怒りの声が上がっていた。まとめサイトもその一つだった。

 

口約束


 一人の尊い命が失われてしまったことではなく、日米関係を優先するかのような発言に憤りを覚える。同時に、事件を政治問題として語る人物が存在することに違和感がある。

 男が逮捕された19日深夜、中谷元防衛相は防衛省に在日米軍司令官を呼び、抗議した。翌日、今度は沖縄防衛局の井上一徳局長らが沖縄県庁を訪れ、安慶田光男副知事に謝罪した。

 違和感の源はその構図にある。東京では在日米軍のトップが日本政府に頭を下げ、沖縄では防衛省の地方組織の長が沖縄県に謝罪する。命を奪われた女性の存在はどこに行ったのか。

 沖縄の地元メディアの記者は22日夜、出張先の東京で言った。

 「日本政府は米軍の代理人。米軍に代わって頭を下げる。それぞれが、それぞれの立場で仕事をしているに過ぎない」

 女性の葬儀には、翁長雄志知事や中谷防衛相、閣僚や地元議員らも参列した。その様子を目の当たりにした沖縄の記者はこう続けた。

 「地元選出の国会議員は葬儀場に車を横付けにした。別の議員は自分のツイッターで『お悔やみを申し上げます』と発信した。政治家のパフォーマンスなのかと思ってしまう」

 そして、空虚だ、と。

 女性の遺体が見つかった翌日、沖縄タイムスは以下のように報じている。

 〈沖縄県警のまとめによると、1972年の本土復帰から2014年までの米軍人・軍属とその家族による刑法犯罪の検挙件数は5862件だった。うち、殺人、強盗、放火、強姦(ごうかん)の凶悪事件は571件で737人が検挙された〉

 「事件が起きる度に『綱紀粛正と再発防止』と言われる。その文言が実効性のない口約束であることは、地元の人間であれば分かる。意味がない」

 

人権問題


 神奈川県でも米兵による性犯罪はあった。遠い昔の出来事ではない。オーストラリア人女性のキャサリン・ジェーン・フィッシャーさんが、米海軍横須賀基地の近くで空母キティホークの乗員から性的暴行を受けたのは2002年だ。

 彼女は先月、公開の席でこう語っている。

 「戦後70年間、日本では米兵による犯罪はなくならず、被害者は後を絶たない。なぜ日本政府は自国の被害女性のために抜本策を取らないのか。恥ずかしいことだ」

 今年3月、那覇市で米兵が女性観光客を暴行する事件が発生した。日本の国会議員たちに対し、「米兵犯罪に対応するチームが欠かせない」と話した直後だったという。そしてまた、何の手も打たれぬまま、うるま市で女性が犠牲になった。

 フィッシャーさんの言葉を聞いてほしい。

 「私は被害に遭って以来、24時間態勢の性犯罪被害の救援センターを日本にもつくってほしい、と訴えています。事件が起き続けているのだから、せめて被害者が駆け込める場をつくるべきだ、と。安倍晋三首相は(国連演説で)『女性を暴力から守る』と言っているのだから、政府主導でできるはずです」

 うるま市の事件後、亡くなった女性と同世代の大学生は「被害者の女性は、幸せになるためこれから実現させたい夢があったと思う」と涙を流し、「人権や権利をないがしろにされ続けるのは嫌だ」と訴えた。

 米兵犯罪は政治問題ではない。2国間関係や軍事問題などではなく、人間社会の根底にある「人権問題」だ。そこを出発点に据えないと、凄惨(せいさん)な事件は今後も繰り返される。

 安倍首相は常々言っている。「政府は、国民の命と幸せな生活を守る」。そうであるならば、日本政府が向き合うべきは、米政府ではなく、自国民であり、沖縄の人々だ。

(デジタル編集部・松島 佳子)



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