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時代の正体 共生を求めて
就学訴訟の波紋(下) 排除する地域あらわ

社会 | 神奈川新聞 | 2020年6月11日(木) 09:12

記者の視点 編成部 成田 洋樹

 障害の有無にかかわらず共に学ぶ「インクルーシブ教育」への道のりはかくも険しいのか。重度の障害があり、人工呼吸器を利用する光菅和希君(8)と両親が川崎市立小学校への就学を求めたが、教育行政と司法によって阻まれた。障害のない子には当たり前に保障されている小学校就学を手にするためには、もはや住み慣れた地域から出て行かざるを得なかった。

 地域を追われた光菅さん家族が直面したのは何だったのか。それは、行政と司法によって地域の学校から排除されたあげく、地域そのものからも排除される「二重の排除」という不条理にほかならなかった。

■対話の欠如


子ども同士でドミノ倒しを楽しむ光菅和希君と母の悦子さん。小学校就学の希望がようやくかない、新生活が始まった=2月22日、川崎市内
子ども同士でドミノ倒しを楽しむ光菅和希君と母の悦子さん。小学校就学の希望がようやくかない、新生活が始まった=2月22日、川崎市内

 思い起こされるのは、呼吸器を利用する名古屋市立中学校3年生の林京香さん(15)と向き合う校長の言葉だ。「地域に住む子が地域の学校に通いたいのであれば、呼吸器を付けていようと拒むことはない。拒む理由は何もない」。淡々とした語り口からは、当たり前の対応をしているだけだとの自負が伝わってきた。

 拒否したり排除したりしないというその考えは、入学後の学校生活でも一貫している。「同世代の子たちと一緒に育ってほしい」と願う両親と対話を重ねて協力を得ながら、共に学ぶ試みを重ねている。

 例えば水泳の授業では、京香さんに手動式呼吸器で空気を送る必要があり、手慣れた父の智宏さん(44)に協力を仰いだ。クラスメートが平泳ぎを習うのに合わせ、あおむけのまま泳ぐ京香さんの足を泳法通りに動かして共に学んだ。

 課題ももちろんある。京香さんにどう接すればいいか戸惑う生徒もいて、「共に学ぶ」ことが常に実践できているわけではないという。だが、そうした試行錯誤の過程も生徒にとっては学びになると考え、誰も排除しない学校づくりに努めている。その実践から見えてくるのは、たとえ重度の障害があっても「共に学ぶ」ことをはなからできないと決めつけず、何ができるかを教員や保護者らが一緒に考えて行動しているということだ。

 今回の裁判で浮かび上がった川崎市教育委員会の姿勢は、それとは対照的だった。「排除しない」という姿勢も対話の姿勢も欠如していた。

 
 

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