病室で年老いた脳性まひ者の俳人、花田春兆が眠っていた。二松学舎大准教授の荒井裕樹(40)は仕事が忙しく、見舞いに訪れても顔を見るだけの日が続いた。発語が衰え、聞き取りにくくなった言葉を、ベッドの上で何度も言い直す姿に、申し訳なさが募った。
2017年5月、電話で訃報を知った。享年91歳。俳号通りの春の日に、雨が降っていた。
文学仲間、障害者運動家─。最後の別れを告げるため、葬儀には多くの人が集まった。荒井はひつぎの中で横たわる花田に心の中で話し掛けた。「育ててくださってありがとうございます。本当にお疲れさまでした」
出会って間もないころ、外出先でサンドイッチの包装フィルムをむき、花田の目の前に置くと、「いや、割ってよ」と言われた。あきれたような表情を浮かべた顔に「食べさせてくれって分かるだろ、気が利かないな」と書いてある気がした。
助けを求めるのは信じているから
共生の実相(中) 亡き師の直筆の句 エールに
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脳性まひ者の俳人、花田春兆から贈られた色紙を手にする荒井裕樹=2020年10月、川崎市高津区 [写真番号:553634]
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ドキュメンタリー映画「さようならCP」の冒頭シーンで足を引きずりながら横断歩道を渡る横田弘((C)疾走プロダクション、ディメンション提供) [写真番号:553636]