6月6日午後6時。現職・林文子(71)が横浜市内のホテルで市長選出馬会見を開いていたころ、民進党会派の打ち上げに出席していた前市議・伊藤大貴(39)のスマートフォンは鳴りっぱなしだった。同党代表代行・江田憲司が伊藤を出馬させるという情報が急浮上していた。
江田は昨年12月のカジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備推進法の成立前から「カジノ誘致を推進するなら市長を変えねばならない」と発言し、対立候補の擁立に動いてきた。
しかし同党の支持率低迷もあって擁立作業は難航。同党県連が推薦依頼の提出期限とした6日夜、元秘書の伊藤に出馬を打診した。
消えた「一本化のチャンス」
林と伊藤の2人から推薦依頼を受けた県連は対応に追われた。
市内選出の国会、地方議員らで構成する総支部協議会で推薦候補を無記名投票で1人に絞る案が浮上すると、林を推す連合系と伊藤を推す旧維新系の双方が、電話などで激しい票の奪い合いを繰り広げた。
ともに情勢への確証が得られぬまま、9日午後6時、45人のうち37人の参加で総支部協議会が始まった。
2時間後、平行線をたどっていた会議が動く。連合系議員が「旧維新系、連合系での市議団の分裂回避を最優先したい」と押し切り、推薦依頼書を受理した県連への判断一任を決定した。
会議に出席せず、近くに止めた車中で待機していた江田は、投票に持ち込めないと分かると車で走り去り、県連幹事長(当時)で連合系の森敏明は「結果は80点」と笑顔を見せた。
「ここで投票で決められなければ、一本化のチャンスはない」という旧維新系議員らの不安は的中し、県連は林と伊藤への自主投票を決定。3日間の攻防が与野党対決の構図をぼかし、その後の戦いを決定付けた。
応援、万歳…3候補を巡回
選挙戦が始まると、連合系はオレンジ色のポロシャツを着て林陣営へ、旧維新系はそろいの緑色のTシャツ姿で伊藤陣営の応援に立った。
県連代表・後藤祐一の動きは象徴的だった。7月25日は菊名駅で伊藤、27日には桜木町駅で林の応援演説に入り、両陣営に配慮を見せたが、投開票日の30日午後8時すぎ、早々と当確が出た林の事務所で万歳する後藤の姿があった。
本紙出口調査での民進党支持層の投票先は、自主投票とした林、伊藤に加え、元民主党衆院議員の長島一由(50)も含めた3人に等分された。同党市議は「民進党なんてそんなもん」と吐き捨てた。
=敬称略