横浜美術館(横浜市西区)の所蔵作品を全面に取り入れたミュージカルが誕生した。KAAT神奈川芸術劇場(同市中区)で上演された「偶然の出会いのように」=写真=には、展示室で見慣れた作品の数々が舞台の核として登場する。
不思議な美術館に迷い込んだ「私」(小田えりな)は、マグリットの油絵「王様の美術館」から抜け出た「紳士」(伊藤裕一)や学芸員たちの助けを借り、絵画を鑑賞することを通して、自分の思いや考えを大事にすることを体感していく。
「私」は歌手を目指していたが、親に反対され、自分には素質がないと思い込み、夢に挑戦しようとは思っていなかった。シュールレアリスムの絵画たちは、「私」が自分でも知らないうちに殻に閉じこもっていたことを気付かせる。
がんがんに響く生バンドと迫力あるダンスが、シュールレアリスムの世界によく合う。
横浜美術館のコレクション展に足を運んだことがあれば、ダリの作品を擬人化したダンサーの見事な動きにため息をつくだろう。
美術館の存在を遠くに感じている若い人たちは、「私」が抱く「絵をどう見たらいいのか」との悩みに共感し、「好きなように感じていいんだ」との思いにほっとするかもしれない。
絵を鑑賞する体験は、時として別の気付きを促し、思いもしなかった感じ方や考え方に導いてくれるものだ。作品の背景を知れば知るほど、美術鑑賞は面白くなるが、まずは美術館に出掛けてほしい。
そのきっかけに、こうした舞台がうまく作用するなら、コレクションを生かした楽しい舞台をもっともっと期待したい。
9月27日の公演を観覧。
公演は、NHK・BSプレミアムで、11月11日午前3時から放送される。