2月11日から横浜ブルク13などで上映。
西川美和監督が佐木隆三の小説「身分帳」を原案に描く重厚な人間ドラマ。粗暴な振る舞いと繊細な心が同居する、主人公の複雑なキャラクターを役所広司がすさまじい迫力で表現。橋爪功や六角精児ら共演する俳優陣も説得力のある演技で脇を固め、日本映画の底力を見せつける傑作に仕上げた。
養護施設で育ち、10代の頃から暴力団に関わって生きてきた三上正夫(役所)=写真右。人生の大半を刑務所で過ごしてきたが、今は身元引受人の助けを借りながら自立を目指していた。その経歴ゆえ仕事を得られず、生活保護で生きる自分にいらだつ三上はトラブルを起こしてばかり。しかし、優しく正義感が強い彼を定職に就けようと、ケースワーカーたちが支援を続けていた。ある日、そんな三上を面白おかしく番組で紹介しようと、テレビディレクターの津乃田(仲野太賀)=同左=とプロデューサー(長澤まさみ)が彼の元を訪れる。
おやじ狩りをするチンピラを半殺しにする三上に恐怖を感じるが、その魂の美しさに引かれていく津乃田を仲野が好演。曲がったことが見過ごせず、すぐに感情を爆発させる三上の姿には心がヒリヒリさせられるが、自らの来歴に向き合い、努力を続ける様子は胸を打つ。人間の根源的な温かさと同時に冷淡さを描き、今日の社会が「すばらしき世界」か否か、観客に重い課題を突き付ける作品。
監督/西川美和
製作/日本、2時間6分