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福島通い命の尊さ絵で訴える 藤沢在住の画家

文化・科学 | 神奈川新聞 | 2021年3月4日(木) 11:12

原爆の図丸木美術館で展示中の「刻の川 揺」(左)と「牧場 放」(提供・山内若菜)

 東京電力福島第1原発事故で被ばくした福島県内の牧場に通い、命の尊さを絵で訴え続けている藤沢市在住の画家、山内若菜(43)。原発事故から10年を経て、真っ黒だった画面に色鮮やかな花や小さな少女の姿を描くようになった。「自分の理想を込めてもいいと思うようになった。そんな自分の絵を描くことで、見る人に希望を届けたい」と自らの変化を語る。

 昨年手掛けた「牧場 放(はなつ)」は、高さ3メートルを超える巨大な作品。福島の馬や牛、ヤギ、イノシシなど多くの動物たちが登場する。青や黄、緑、赤とさまざまな色の中で力強く躍動する。

 加筆を繰り返し、和紙を貼り重ねた画面はしわがより、動物たちが負った苦しみにも見える。

 「全て福島で死んだ動物たちだが、生き返らせる思いで描いた。死から解き放つような」と山内。

 原発事故で被ばくし、2019年に死んだ馬のたてがみをもらい、画面に埋め込んだ。ロシアの少数民族が動物の毛を絵に埋め込んで力を持たせる呪術の話から、死者をよみがえらせる意味を込めた。

 「命が吹き込まれて、エネルギーを感じる。絵自体が動物のようで、描いている間は大きな動物に包まれているようだった」

 13年に福島県浪江町や飯舘村の牧場を初めて訪れて以来、自分が見聞したものをひたすら描いてきた。

藤沢市内のアトリエで大作と向き合う山内若菜。丸木位里(いり)・俊(とし)夫妻も同市に構えたアトリエで「原爆の図」を制作したことに「縁を感じる」という

 次々と死んでいく動物や心身共に傷ついた人々。当初、墨を塗り重ね、ごわごわになった画面は真っ黒だった。放射能の怖さを表現していたのだが、「怖い絵は誰も見たくないですよね」と振り返る。

 やがて「無駄な命はない」という思いから、天を駆ける不死の象徴ペガサスを描き込み、自分の希望を託すようになった。

 横浜市内や岡山県の中学校で芸術鑑賞会や命を考える講演会を行う中で、自作に対して率直な意見をもらったことも大きいという。

 「もっと何もかも覆すような七色の世界が必要」という気構えができ、「牧場 放」につながった。

 深い青を背景にたたずむ少女やきらめく川面、街の風景を描いた「刻(とき)の川 揺(ゆれる)」は、19年、20年と続けて訪れた広島がテーマだ。ペガサスが力強く天を舞う。

 少女の両手は唇を覆い、口をつぐんでいる。長崎で被ばくした少女の父が「うちは誰も死んどらんけん、人に言うたらだめよ」と言ったエピソードに触発されて描き始めたイメージだ。

 広島を描くきっかけは、16年3月に原爆の図丸木美術館(埼玉県)で個展を行い、「原爆の図」を模写した体験だった。見えない放射能の恐怖を可視化する表現を学び、現在の広島を感じたいと訪れた。

 「原爆が落ちた国で、なぜ原発事故があったのかとずっと疑問だった。この目で見て描き残したい」との思いも以前から抱いていた。

 「コロナ禍で命こそが一番だと見直す動きがある。今だからこそ、伝わるものがあるのではないか」。悲惨な体験を、未来へ伝える希望として絵筆に託す。

 約35点が並ぶ展覧会「はじまりのはじまり」が同館で開催中。4月10日まで。月曜休館。一般900円ほか。問い合わせは同館、電話0493(22)3266。

 
 

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