別の依存へ予断許さぬ 危険ドラッグ「クロス・アディクション」

危険ドラッグを含めた薬物依存症からの脱却を目指すプログラム「SMARPP」に参加する患者ら =県立精神医療センター

 新たな依存薬物として社会問題化した危険ドラッグ。取り締まりの強化により、県内の医療現場では依存症患者は減少傾向にある。ただし、別の依存症に移行する「クロス・アディクション(多重嗜癖(しへき))」現象も見られ、根本的な解決には至っていないとの指摘もある。相談や治療体制の充実が求められている。

 横浜市港南区の県立精神医療センター。青のボタンダウンシャツとジーンズ姿で来院した30代男性は会社員で既婚者だ。

 男性が危険ドラッグを使い始めたのは約2年前。当時はまだ違法ではなかった「リキッド」と呼ばれる薬物だった。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で知り、「合法」「気分が良くなる」といった書き込みを見て軽い気持ちで取り寄せたのが始まりだった。

 使ってみると確かに気分が良くなった。それからさまざまな危険ドラッグを試すようになった。

 ドラッグを手放せなくなるのに時間はかからなかった。高揚感を味わう一方、「自分を常に見張る監視員」の幻覚に悩まされるようにもなった。

 危険ドラッグの使用は取り締まりの強化を機にやめた。「違法じゃないから手を出しただけ。気持ちが良くなるものやすぐに吸えるものはすべて違法になってしまったので、もう使う気はない」。仕事の合間を縫って通院し、まだ現れる「監視員」の幻覚と闘い続けている。

 同センターで扱った危険ドラッグ依存症の初診患者数は昨年度、101人に上った。前身のせりがや病院時代を含めて以前は年間20人程度だったが、3年ほど前から同100人程度の高水準が続いていた。

 特に昨年4月の薬事法改正で新たに所持も禁止するなど規制が強化されると、逮捕を恐れた患者や家族が殺到し、同年7月には1カ月で20人も初診患者が来院した。

 その後は減少傾向にあり、ことし3月には1人にとどまった。

 同センターの小林桜児医師によると、危険ドラッグ依存症患者の特徴は反社会性が薄いことだという。「順法意識が高く、逮捕されるリスクを冒したくはないから、当時は『脱法』だったドラッグに手を出した。だから違法性が強調されるとすぐに自粛する」と分析する。

 覚せい剤は罰則が厳しく、たびたび乱用者が殺人事件などを起こして大きく報道されても使用者は減らないという。それに比べて危険ドラッグは違法になるとやめる人が多い。「危険ドラッグ使用者は、かつての薬物依存症患者に多かった不良少年とは全く違う層で、むしろ表面上は“良い子”が多い」と小林医師。インターネットを通じた入手のしやすさも薬物に手を出す“普通の人”の増加につながっていると指摘する。

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