【ひとすじ】「海抜ゼロ」から見つめる|カナロコ|神奈川新聞ニュース

【ひとすじ】「海抜ゼロ」から見つめる

海洋冒険家・八幡暁(上) 

牡鹿半島の美しいリアス式海岸を眺めながらこぎ進める八幡さん=宮城県石巻市沖

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悲しみの被災地


 法人税率の引き下げを表明した首相の安倍晋三は、こう力説した。「グローバルスタンダード(世界基準)だ。世界経済の中で日本が勝ち抜くためにやるべき戦略だ」

 八幡は思う。「それはつまり、同じ土俵にみんなで乗り、競って一つのパイを奪い合うということだ。カネという尺度で幸せを測り、単純化しようとしている。でも人が生きる意味や幸せとは、そんなに単純なものだろうか」。

 外界から隔絶した寒村に生きる漁師のふとした笑顔、海辺ではしゃぐ子どもたち、見上げた満天の星空…。「物質的にはたとえ満たされなくても人は幸せを感じられる」。体当たりで手に入れた価値観は今、確信に満ちる。

 夕暮れの宮城県名取市閖上。港町に砂ぼこりが舞い、街の明かりは遠い。6、7メートルまでかさ上げされた真新しい防潮堤だけがやけに白く浮き立っていた。

 住民の一人はこぼした。 「昔は、こっからも松林の間に海が見えてたんだけどなぁ」

 コンクリートで覆い尽くす復興。国土強靱(きょうじん)化という名の成長戦略。悲しみの上に重ねなければならなかった被災地の哀(かな)しみにこそ、「この国の今」はくっきりと立ちのぼってくるのだった。
=敬称略〈つづく〉

やはた・さとる 1974年生まれ、東京都出身。98年、専修大卒。大学時代から八丈島で素潜り漁を始め、卒業後は世界各地の漁師の仕事を学ぶため国内外を旅して回った。「海とともに暮らす人々はどのように生きているのか」をテーマにオーストラリアから日本までの多島海域を舞台に2002年から人力航海の冒険をスタート。台湾-与那国島(06年)、フィリピン-台湾間海峡横断(07年)、八丈島-鎌倉間海峡横断(08年)など世界初となる単独無伴走人力航海記録を複数持つ。


◆海遍路 魚類生態学が専門の高知大の山岡耕作名誉教授と海洋冒険家の八幡暁さん、森と海の連環学の研究で知られる京都大の田中克名誉教授らが中心メンバーとなり、衰退する漁村で生きる人々の話に耳を傾け、日本人の原点といえる人と海のつながりに焦点を当て、複雑化する社会問題、環境問題の要因や解決策を模索するのが狙い。2011年から3年かけてシーカヤックで四国を一周したのを皮切りに、今年5月15~31日には「海遍路・東北」と銘打ち、宮城県沿岸を巡った。今後国内へと活動範囲を広げていく。


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