IT技術 地域再生にこそ、ビッグデータ基本特許保有する鍵和田芳光社長

自身の特許についての将来性を語る鍵和田さん=藤沢市湘南台

膨大なデジタルデータを分析し、売れ筋商品をつかみ、新しいビジネスにつなげる-。企業経営で一躍脚光を浴びるビッグデータ。その有用性にいち早く気付き、日米で基本特許を保有する人物がいる。藤沢市にあるIT企業「NAVICO(ナビコ)」社長の鍵和田芳光さん(51)。インターネット時代の先端を見据えてきたその目はいま、足元の地域へと向かう。

鍵和田さんが持つ特許は、商取引における個人情報を企業間でやりとりするシステムだ。

インターネットで商品を注文した消費者の情報を生産者、販売者、流通業者で共有することで、注文から配送までの流れが効率化される。

配達先の住所や決済のための口座番号などの情報提供を自動的にコンピューター処理するシステムは、ビッグデータをビジネスに活用する際に基盤となる手法といえた。同様の仕組みを取り入れているインターネットサイトはいまでは珍しくないが、鍵和田さんは「グーグルやヤフーも、私の特許に抵触している可能性がある」と苦笑する。「出願したのは2001年なので」。特許は12年に米国で、13年に日本で成立した。

発想を得たのは1999年。父が経営する松田町の寝具メーカーで行ったある調査結果に目を見張った。

「地域で配るチラシの広告効果を調べてみた。布団や毛布の購入率を新築の家と既存家庭に分けて分析すると、『新築』『引っ越し』『結婚』した直後の家では、他と比べ400倍を超える効果があった」

新築や転居といった情報をICT(情報通信技術)で集め、さまざまな業種の企業でやりとりすれば、多様なビジネスチャンスを掘り起こすことにつながるのではないか-。

世界に先駆けた特許の裏には、地に足を着けた愚直なまでの営業戦略が根を張っていた。

■可能性

足元を見詰める視線は、特許を駆使して開発した「UNIOSS(ユニオス)」という受発注システムにつながっていく。

09年、鍵和田さんが向かった先は、石川県の能登半島。奥能登と呼ばれるその地には生産量の希少な米、塩、牛肉、岩のりといった知る人ぞ知る魅力的な名産品が数多くあった。だが、地理的な問題から流通に乗りにくく、売れ行きは振るわず、地域は疲弊していた。

地元の商工会議所から相談を受け、自身のICTを活用した通販サイト「地域ブランド市場 奥能登」を立ち上げた。

サイト上で買える名産品は珠洲、輪島市、能登、穴水町といった奥能登地域に点在する各店舗が生産している商品だ。

消費者がサイトから注文すると自動的に生産者へ発送依頼が届き、地域ごとに地元の商工会議所や物産協会が集荷し、運送会社を通じて消費者に届く。

複数の販売元にわたる複数の商品の注文を一括して自動的にデータ処理する点がミソ。注文から決済までの一連の流れを一気に済ませることができるだけでなく、消費者は何度も配送先や入金方法を入力する必要がない。その分、手数料も省かれる。

「UNIOSSはどこの地域でも低コストで導入できる。大手スーパーの商品と中小店舗の商品を同時に売ることもできる。衰退した商店街でも、力のある商品があれば、街の活性化に結び付けられる」

鍵和田さんは、その可能性を信じる。

■還 元

今年2月、慶応大が中心となった産学官の共同体組織「新世代インテリジェントシティコンソーシアム」の発足式に鍵和田さんの姿があった。

地元の藤沢市も加わったプロジェクトが目指すのは、UNIOSSを用いた地域の活性化だ。

地域の商店街を含めた受発注システムの構築を目指す構想は、ネット空間から街中へと広がる。

商品カタログを駅のホームといった地域住民がよく足を運ぶ場所に張り出す。あるいは雑誌の誌面に掲載したり、新聞の折り込みチラシとして各家庭に届ける。印刷されたQRコードをスマートフォンや携帯電話で撮影すれば、注文は完了。商品は自動的に自宅へ届けられる。

情報発信力に乏しい小さな商店の手助けになるだけではない。頻繁に買い物に出掛けることができない高齢者などの「買い物弱者」の支援としても有効だ。

話は特許に戻る。

特許申請を担当した塩野谷英城弁理士は「IT企業は運用しているシステムを極秘にしているケースが多く、立証は簡単ではないが、ビッグデータを活用した既存の商取引システムの一部が、鍵和田さんの特許に抵触する可能性は少なからずある」と指摘する。

だが、鍵和田さんは特許侵害の訴訟を今すぐ起こすことには慎重だ。それよりも、自身が考案したシステムを社会に生かすことに力を注いだ方が意味があると考えるからだ。

そこに哲学がある。

「時間と距離の壁を壊す。ITの存在意義は、そこにある。そして、それこそが地域再生の鍵になる」

これからも地域にこだわり続ける。

◆ビッグデータ パソコンやスマートフォン(多機能携帯電話)、各種センサーなどあらゆる電子機器から発信され、蓄積されている膨大なデジタルデータ。ポイントカードの利用履歴を分析することで「売れる商品」の開発につなげるなど、企業のマーケティングや新しいビジネスモデル創造といったさまざまな活用が進んでいる。日本政策投資銀行は周辺産業を含めたビッグデータ関連の国内市場規模が2012年度の5269億円から、15年度に1兆1178億円に拡大すると試算している。

【神奈川新聞】

PR