舞台「華氏451度」主演 心情の変化を丁寧に|カナロコ|神奈川新聞ニュース

舞台「華氏451度」主演 心情の変化を丁寧に

吉沢悠さん

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【K-Person】吉沢悠


 3年ぶりの舞台。初の白井晃演出作品への出演。28日にKAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)で始まる「華氏451度」で主演を務める。

 「美しくて繊細。役者がただ『記号』として居るわけではなく、ちゃんと生きている。そんなイメージが白井さんの作品にはあった」。そこに自分も加われる喜びを胸に、出演を決めた。

 原作は米作家レイ・ブラッドベリが1953年に手掛けた同名のSF小説。描かれるのは読書や書物の所持が禁じられた近未来の管理社会で、隠していた本が見つかると「ファイアマン」がそれを焼き尽くす。新たな通信媒体の発展を前に、本がラジオに取って代わられるとの作者の懸念から生まれた作品だ。

 「かなり前に書かれた本だけど、『先月発売した』と言われても違和感がないほど今の自分たちに通じるものがある」。電車内で乗客が一様にスマートフォンを操作し始めるような光景を目にすると、65年前の作者の違和感に共感を覚える。

 劇作家の長塚圭史さんが上演台本を作成した。「僕が原作を読みながら『これは表現者として伝えたい』と感じたことが、台本にも盛り込まれていた」。それは人と人のつながりだったり、人の豊かさとは、といった問いだったり。「本が禁止されるという設定も面白いけど、僕はこれは『人』の話だと思っていて」。ディストピアの中で繰り広げられる人間模様もまた、この舞台の見どころだ。

 演じるのはファイアマンの1人、ガイ・モンターグ。権力に従順なこの人物は、クラリスという女性に出会い、人生が一変する。自らの行いに疑問を抱き、やがて自身が追われる身となっていく。

 「世間が『こっちですよ』と示すレールを疑わずに走っていたような人だが、実は心の奥底に繊細さがあり、真理を求めようとする。この心情の変化も丁寧に演じたい」

 オファーをもらったときは「これはチャンス」と気持ちが高揚した一方で、同じぐらい不安にも襲われた。だが、今身に染みて感じるのは「演劇って面白い」。白井さんの的確で細かい指南、刺激的な共演者のおかげで、この当たり前のことを再確認できた。

 かつて映画化もされた「華氏451度」。舞台ならではのエンターテインメント性があると強調する。

 「願わくば僕が観客席から見たいぐらい。それほど期待してほしい作品」。その表情には、確かな自信がにじんでいた。

よしざわ・ひさし 俳優。1978年生まれ、98年デビュー。映画、テレビドラマ、舞台など幅広く活躍。2002年「ラヴ・レターズ」で初舞台。主な舞台出演作品は、「幕末純情伝」(08年、つかこうへい演出)、「オーデュボンの祈り」(11年、ラサール石井演出)、「助太刀屋助六 外伝」(12年、G2演出)、「遠い夏のゴッホ」(13年、西田シャトナー演出)、「宝塚BOYS」(13年、鈴木裕美演出)、「きりきり舞い」(14年、上村聡史演出)、「TAKE FIVE」(15年、渡瀬暁彦演出)など。映画では主演「ライフ・オン・ザ・ロングボード2ndWave」(喜多一郎監督)が19年春に公開。舞台「華氏451度」は10月14日まで。2、5、9、12日は休演。S席7千円、A席5千円など。問い合わせはチケットかながわ電話(0570)015415。


記者の一言
 20代の頃に芸能活動を休止した時期がある吉沢さん。「考えすぎてしまって。現場で芝居をすると自分を『消費』しているような感覚になってしまった。命を削っているようだった」と明かしてくれた。その真面目な人柄は、丁寧に言葉を継いだインタビューにも表れていた。再始動を後押ししたのは、舞台で輝く米ブロードウェーの俳優や元大リーグ・ヤンキースの松井秀喜さんらの米国での活躍だったという。「今の自分は現場で『生産』できています」。そう語る吉沢さんもまた、とてもまぶしかった。

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