少女の成長明るく描く 一歩踏み込む言葉も|カナロコ|神奈川新聞ニュース

少女の成長明るく描く 一歩踏み込む言葉も

高坂希太郎監督

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【K-Person】高坂希太郎


 イタリアで自転車レースに懸ける男たちの熱い戦いを描いた「茄子(なす) アンダルシアの夏」以来、15年ぶりに劇場公開作品の監督を務める。意外にも思える選択は、長年にわたって人気を集める児童文学が原作の「若おかみは小学生!」。友人に頼まれて引き受けたが、最初は「なぜ自分が」と戸惑ったという。

 主人公は、両親を交通事故で亡くした小学6年の少女おっこ。祖母の営む旅館で、幽霊や精霊といった不思議な存在や友人たちの力を借りて、若おかみとして成長していく物語を明るく描いた。

 「昨今は、国家でも個人でも自分勝手な振る舞いから、あつれきを生むことが多い。自分を抑えてお客さんのために奔走する接客業に引かれた」

 子ども向けと侮っていると、ドキッとするせりふが登場する。「普通なんて曖昧な物差しで、お客さまを見てはいけない」と祖母がおっこを諭す。「ありきたりの言葉では、見ている人に届かない。もう一歩踏み込みたかった」と、原作にないせりふを盛り込んだ。普通とは何かをさりげなく、だが深く問い掛ける。

 「常識から外れた視座の方が、見ている人にも電気が走るんじゃないか。反社会的ではないけれど、非社会的なところがある」と自分を評する。

 現在は横浜市泉区に編入された同市戸塚区和泉町で、中学1年まで過ごした。

 「中学生のとき、『宇宙戦艦ヤマト』にはまった。当時は中学生になってもアニメを見るのは、恥ずかしいとみなされていた」と肩身の狭さを振り返る。

 その後、「未来少年コナン」や「機動戦士ガンダム」に夢中に。高校の夏・冬休みには、アニメの制作会社に押しかけて、仕事をさせてほしいと頼み込んだ。

 「向こうは本気じゃなかったんでしょうが『いいよ』と言われたのをうのみにして、卒業してすぐ働き始めた。今みたいに仕事内容の情報もなくて。まさかアニメーターが社会の最下層とは」と厳しい状況を嘆きつつも、楽しそうに語る。

 宮崎駿、高畑勲両監督の下で多くの作品に携わり、薫陶を受けた。監督業をやってみて、二人の「いかに人を楽しませる画面を作っていくか、というこだわりと執着はすごい」と強く感じたという。

こうさか・きたろう アニメーター、アニメーション映画監督。1962年生まれ、横浜市出身。79年OH!プロダクション入社。86年フリー転身後、「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」など多数のスタジオジブリ作品に作画監督や原画担当として参加。2003年「茄子 アンダルシアの夏」で監督デビュー。「風立ちぬ」(作画監督)で、14年東京アニメアワードフェスティバル・アニメーター賞受賞。
21日から全国上映される長編劇場アニメ「若おかみは小学生!」で監督、キャラクターデザインを務める。原作は「若おかみは小学生!」シリーズ(作・令丈ヒロ子、絵・亜沙美、講談社青い鳥文庫)。6月、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭長編部門コンペティション選出。


記者の一言
 おっこが暮らす温泉街と旅館は兵庫の有馬温泉や京都の料理旅館、美山荘がモデルとなっており、地理的には東伊豆にある設定だ。だが海沿いの自動車道は西湘バイパス、おっこが買い物するショッピングセンターはJR辻堂駅前のテラスモール湘南がロケ地。宿帳に書かれたある宿泊客の住所は、統合されて今はもう現存しない監督の子どもの頃の居住地。画面の中に、こうした神奈川ゆかりが見つかるとうれしい。今年6月、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭では「茄子 アンダルシアの夏」と比較され「主人公らが一つの地域になじんでいこうとする姿が似ている」と評されたそう。なるほど、そんな見方もあるなと感じ入った。大人も子どもも温かい気持ちになる作品だ。

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