【甲子園】慶応エンジョイ新時代<上>監督より「経営者」|カナロコ|神奈川新聞ニュース

【甲子園】慶応エンジョイ新時代<上>監督より「経営者」

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  • 公開:2018/08/11 02:00 更新:2018/08/11 02:00
 慶応が10年ぶりに甲子園で挙げた1勝は、森林貴彦監督(45)にとっては初勝利だった。就任3年目の指揮官は、慶応に根付く「エンジョイ・ベースボール」を継承した上で、さらに進化させようと試みている。2回戦以降も躍進が期待される「森林野球」に迫った。2回連載の初回。

 バッティング練習中、森林監督は打撃ケージの後ろに据えた椅子に座り、じっと見守っている。声を荒らげたり、手取り足取り選手を指導することはほとんどない。

 その間、監督と頻繁にやりとりを交わすのは学生コーチたちだ。学生コーチは、上田誠前監督の時代から野球部OBの慶大生が担う。監督と選手の間に立ち、投手、野手担当などに分かれて指導し、森林監督自身もかつて4年間務めていた。多くは高校時代は控えで、「自分も学生コーチに支えられたから」と裏方に回る。現在は計15人が指導に当たり、大阪にも7人が帯同している。

 森林監督はコーチたちの権限を最大化する「進化」に踏み切った。

 「ある程度の意思統一は図りますが、『好きにやっていいよ』と言っています。打ち方も投げ方も捕り方も、どんどん試してくれ、と」

 赤松衡樹部長(41)が言う。「今は自分も選手に直接指導することがほぼない。(打撃フォームなどが)おかしいなと思っても、学生コーチと試行錯誤している途中の段階だったりするんで」

 底流にあるのは、森林監督自身が慶応野球部で出合った、自ら考え、自ら学ぶという「自主性野球」だ。

 「僕が高2の夏に上田前監督が就任して、『二塁けん制のやり方はおまえらで考えてくれ』と言ってくれて、もう夜になるまで夢中になって話し合った。自分が指導者を志した原点ですね」

 上から答えを与えられるのではなく、学生コーチとともに「なぜ」を悩んだ先にある、高校生なりの解を探してほしい。その繰り返しが、真の自立につながると考えている。

 大学院1年で、最年長の杉山瑛彦コーチが「良い例」に挙げたのは、5番根岸だ。豪快なフォームの根岸は打撃練習中も一人別メニューを組み、黙々と練習を行う。「普通のチームなら根岸ははじかれると思う。自分で考えた上なら、違ったアプローチが許容されるのが慶応らしさ。それを支えるこちらもやりがいを持てますよね」

 ただ、ここで疑問が浮かぶ。学生コーチも日々指導を学ぶ発展途上の存在だ。その知識や指導が的外れになる心配はないのだろうか。

 森林監督は「僕自身がすごい技術屋で、自信満々に教えられたらそれはありだと思う。そんな技量はないので、コーチ一人一人の力を引き出すという方がいい。そういう思いは就任1年目より2年目、今年とどんどん大きくなってきている」。

 学生コーチがノックを打つ後ろで、好守に静かに手をたたく指揮官の姿はいわゆる「高校野球の監督」とは一線を画す。

 「僕はこの大所帯(部員105人)の組織をどう回して、どう力を引き出すかを考えている。そういう意味では監督というより、経営者の感覚に近いですね」

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