〈時代の正体〉問われる川崎市の姿勢 ヘイト集会の報告非公開|カナロコ|神奈川新聞ニュース

〈時代の正体〉問われる川崎市の姿勢 ヘイト集会の報告非公開

福祉施設の入り口に崔さんが貼ったポスター=川崎市川崎区桜本

【時代の正体取材班=石橋 学】配布資料に「非公開」の文字が刻まれていた。25日、有識者でつくる川崎市人権施策推進協議会(会長・建石真公子法政大教授)。在日コリアンの排斥を唱えるヘイト集会に市が公的施設を貸し出した問題で当局の報告が始まる前、傍聴者は退席を求められた。当事者の切実な願いに、市はどれだけ思いを致そうとしているのか。

 「退席願います」との言葉に、問い返さずにはいられなかった。「協議会も了承したのか」。ただ一人傍聴していた在日3世、崔(チェ)江以子(カンイヂャ)さんの声が響いた。根拠となる条例を読み上げる建石会長にためらいがにじむ。非公開は市側の意向だったからだ。

 非公開の理由は「プライバシーに関わるため」。報告されたのはしかし、報道ですでに明らかな経緯にすぎなかった。委員らは「全く非公開の必要のない内容」とあきれた。そもそも事務局の市人権・男女共同参画室は、協議会の提言で策定されたヘイトスピーチを防ぐための指針に関する問題にもかかわらず、会長に求められるまで報告するつもりがなかった。

 指針を設けながら公的施設の使用を許可した結果、多くの市民が抗議に集まった。講演会は中止になったが、参加者から「ウジ虫、ゴキブリ、出て行け」とヘイトスピーチが発せられた。それから1カ月半余り。ヘイト対策阻止を公言する主催者の瀬戸弘幸氏は、市の見解を執拗(しつよう)にただす電話のやりとりをブログで公表。これ以上の「面倒」を避けたい市の及び腰が透けた。

 崔さんには聞きたい言葉があった。「今回は市民を人権侵害から守れなかったが、これからは頑張ると決意表明してくれると信じていた。地域のハルモニ(おばあさん)や子どもたちにもう嫌な思いをしないで済むと伝えたかった」

 意思表示でもあった。わが街・川崎区桜本がヘイトデモの標的にされて2年半余り、市議会や協議会の傍聴に足を運んできた。参政権が認められていない韓国籍。「傍聴は唯一できること。ちゃんと見ていると示すことで行政を応援してきた」。策定された指針は被害を受け止め、施策で守られる存在だと示すものだから尊かった。

 施策がありながら守られなかった絶望は深い。6月上旬以降、市内で50件もの差別落書きがなされているのも見つかった。

 毅然(きぜん)とした行政の発信がどれだけ求められているか。崔さんはこの数日間、所属する社会福祉法人の事業所にポスターを貼って回った。同室が作った、差別落書きを人権侵害と非難するものだった。職場の市ふれあい館には2枚送られてきただけだったので、10枚をカラーコピーし、雨風で色あせないようラミネート加工を施した。ポスターを活用することが担当者への応援になるとの思いもあった。

 当事者の切実さと、行政の重みは認識されているのか。崔さんの発言に職員は両腕でバツをつくり、「発言は認められません」と制した。人権を担う職員にそう振る舞わせるのは何か。あるいは忸怩(じくじ)たる思いを抱かせているのは誰か。この一件は福田紀彦市長をはじめ市幹部にどう報告され、市のトップはどう聞くのか。

 「当事者としての発言は私にしかできないから」

 差別の根絶へ市民と議会、行政の「オール川崎」をもう一度結び直す覚悟を、崔さんはそのようにして示している。

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