やまゆり園事件と強制不妊手術 被害者の証言<後編>|カナロコ|神奈川新聞ニュース

やまゆり園事件と強制不妊手術 被害者の証言<後編>

そろいのピンクの飾りを付ける佐藤由美さん(右)と義姉路子さん=宮城県内

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【やまゆり園事件取材班】後半は、宮城県の佐藤由美さん=仮名、60代=と、札幌市の小島喜久夫さん(77)。障害者差別に立ち向かう決意を語る。

排除の空気変える
佐藤 由美さん(仮名、宮城県、60代)


 佐藤由美さんが不妊手術を受けたのは15歳。中学3年の時だった。幼い頃に受けた麻酔治療の後遺症で知的障害が残ったにもかかわらず、県から開示された手術台帳には「遺伝性精神薄弱」。なぜ手術を受けさせられたのか分からない、と義姉の路子さんは言う。

 19歳の時に嫁いできて最初に驚いたのが、由美さんのおなかに残る生々しい、大きな傷。しばらくして義母から「子どもができなくなる手術をしている」と聞かされました。誰が? 何のために? そう尋ねればよかったのですが、悔しそうな表情の義母にそれ以上聞くことができませんでした。手術の話題が上がったのは、その一度だけです。

 由美さんは日常的に「おなかが痛い」と訴えた。30歳の頃、卵巣嚢腫(のうしゅ)になり、右片方の卵巣を摘出した。不妊手術で卵管を縛ったため、癒着したのが原因と医師から告げられた。

 婦人科に連れて行っても激しい拒絶反応を示し、看護師が押さえつけないと診察ができないくらいでした。体が手術の痛みを覚えていたのでしょう。卵巣を摘出してからは痛みが治まったようですが、同じ女性としてこんなに切ない、もどかしいことはないと感じています。障害者だからと傷を付け、人生を狂わせていいはずがありません。

 全国初の提訴のきっかけは、同じ宮城県内の70代女性が日本弁護士連合会に人権救済を申し立てたニュースを偶然目にしたことだった。路子さんの隣ではにかみながらやりとりを見つめていた由美さんに尋ねると、短い答えが返ってきた。

 -手術の記憶はありますか。
 ないです、ない。

 -傷はどの辺ですか。
 (へその下辺りを差して)この辺だね。

 -結婚したかったですか。
 ないです。

 -子どもは欲しかったですか。
 ないね。

 -お姉さんがサポートしてくれるのは心強いですね。
 はい。

 相模原市緑区の障害者施設で入所者ら45人が殺傷される事件が起きた時、路子さんは体が震えるほどの恐怖を覚えた。「旧優生保護法が社会に根深く残っている」。この裁判をきっかけに障害者を排除する社会の空気が変わってほしいと願う。

 どんな障害を持っていても生まれてくる子に罪はありません。親やきょうだいにとってはかけがえのない命。障害を持って生まれても、生み育てられる社会にしていかなければいけない。優生思想はなかなかなくならないかもしれないけれど、この裁判で障害者差別をなくしたいんです。

過ち繰り返さない
小島 喜久夫さん(札幌市、77歳)




 初めて実名を公表し、提訴に踏み切った。素顔をさらして証言を続けるのには、理由がある。

 おれが知っている手術の被害者は10人くらいいる。ニュースでおれを見たら、彼らが立ち上がってくれると信じているのさ。何十年、何百年たって、同じ過ちが繰り返されないように、おれたちが踏ん張らなきゃいけないんだ。

 「彼ら」とは、入院先の精神科病院で出会った患者たちだ。19歳のある日、駐在所の巡査が札幌市の実家に押しかけてきた。逮捕令状なしに手錠をはめられ、病院に連行されたという。

 なして手錠なんか、って食い下がったよ。(実子でない)おれを邪険にしたおやじ(養親)は「一生ぶちこんでやる」って。病院で注射を打たれ、気づいたら独房にいた。看護師は「あんた、精神分裂病だから」と決めつけるんだ。暴れると、また注射を打たれて、こんどは雑居房にいた。

 そこに「彼ら」がいた。

 アル中(アルコール依存症)、ポン中(覚せい剤依存症)、知的障害者もいたな。いっぺんに5人くらい手術を受けさせられた。反抗したら、電気ショックをくらった。入院3カ月後だったかな、看護師がこう言うんだ。「あさって、あんたの番だよ」って。もう抵抗する気力はうせ、おとなしくなっていたよ。

 左右の脚の付け根にそれぞれ、4・5センチと3センチの手術痕が残る。約1年後に病院を脱走し、札幌市のおばに保護された。

 病院の連中は、おれを連れ戻そうと追ってきた。おれは幸運だった。なかには、何十年も閉じ込められた患者もいたはずだから。

 妻麗子さん(75)に、不妊の理由を「おたふくかぜのせい」とごまかし続けた。1月に初の訴訟が起こされ、国の手術だったと知る。麗子さんは夫の告白を鮮明に覚えている。

 ヒトラーみたいなことするね、被害者が気の毒だねって2人で話していたら、翌日、(小島さんが)「実はおれもなんだ」って言うの。提訴を勧めました。自分の人生、全部はき出してしまいなさい、一緒に闘うから、って。

 小島さんに、やまゆり園事件の植松聖被告(28)が描いた重度重複障害者のイラストを見てもらった。すこし沈黙し、口を開いた。

 これ見たら、考えちゃうな。あの同房にも、いたんだよ。被告の目に、おれと同じように彼らが映っていたのなら、なぜ、いたわってやれなかったのか、わからない。だれも好きこのんで障害をもつわけなじゃないんだ。同じ人間、同じ雑居房に入れられた仲間として、彼(被告)を許すわけにはいかない。

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