時代の正体〈617〉選手の未来考え指導を スポーツハラスメント|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈617〉選手の未来考え指導を スポーツハラスメント

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2018/07/12 11:00 更新:2018/07/12 11:00
【時代の正体取材班=田崎基】命令と服従、特異な権力構造から決別できないスポーツ界。問題は深刻だ。5月に起きた日本大アメリカンフットボール部による悪質タックル問題はその根深さを物語る。スポーツ教育学に詳しい早稲田大の友添秀則教授は言う。「スポーツ界の体罰、ハラスメントの実態は暗く、やわな問題ではない」。桐蔭横浜大(横浜市青葉区)で6月、同大運動部に所属する学生向けに行われた講演を紹介する。

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 スポーツが社会的に成立するためには何が必要でしょうか。2012年に女子柔道のナショナルチームで監督による選手への暴力事件が起きた。これ以降、柔道の入門者は激減し、いまもその傾向が続いている。

 中学生の間でも柔道の愛好者は激減している。親が「柔道をやったら殴られる。やめておけ」と考えるのは無理もない。

 スポーツの本当の危機とは、社会からその種目が支持されなくなることだ。このことをしっかり頭の中に入れておかなければいけない。

 いろんな人たちがそのスポーツを支持し、応援してくれるから栄える。この現実を踏まえてスポーツ界の暴力を考えなければいけない。

社会規範のズレ


 もう一つは、スポーツ界の常識と、社会の常識が一致しなければならないという点だ。まさに日大アメフット問題がそうであった。

 これまでも再三問題となってきた。12年12月に大阪市立桜宮高校のバスケットボール部で、顧問の教諭に殴られた部員が翌日自殺するという事件が起きた。

 社会がこの問題に注目していた13年5月に行われたアンケートがある。関西を中心とした有力大学の運動部員の約3割が小中学生時代に体罰を受けたことがあると答えていた。さらに全体の約6割が「監督やコーチと信頼関係があれば体罰は認められる」とも答えていた。高校野球でも、高野連が同じ時期に実施した調査で、指導者の約1割は「体罰は必要だ」と答えていた。

 実態は相当暗い。どうしてこうしたデータが出てくるのか。原因は三つあると思っている。

 一つ目は「追いつけ追い越せ」主義。例えば、中学3年間でどうしても全国トップに立ちたいとする。最後の最後にとっておきの方法がある。殴る。殴るとはっきり成果が出てくる。

 しかし、成果は短期間で終わる。明確にデータが出ている。つまり麻薬と一緒だということ。

 二つ目は「勝利」が手段になっているという点だ。スポーツで名を挙げ、インターハイで優勝し、うまくいけば五輪選手を輩出し、その高校が有名になる。受験生が増えると進学校に変わっていく。

 「勝利」が私学経営の一つの手法になっている。大学も同じで、1月の箱根駅伝で優勝すれば受験生が増え、即収入につながる。こうした背景を抱え、誤った勝利至上主義が浸透している。これは「勝利至上主義」でなく「勝利手段主義」であって、こうなるともはやスポーツへの冒涜(ぼうとく)だ。

 三つ目は特異な権力構造の中にある閉鎖的集団という点。学校に行って練習する。部活外の生徒とあまり会話をしない。毎日毎日、閉じた空間で過ごすと、自分たちの規範や倫理が最も重要で大切に思えてくる。つまり「勝てば何でも許される」という規範だ。

 これが一般社会の規範、倫理、良識とずれていく。何が起きるか。個々の選手が、監督、コーチ、先輩に依存していく。命令と服従による特別な権力構造が生み出される。古い体質の組織を作っていく上ではこれが非常に有効な方法であった。だがもう過去のものとしなければならない。

知識と能力欠如


 暴力を使う指導者のタイプは四つあると考えている。一つは、暴力的指導が正しいと確信しているタイプ。二つ目は気に入らない選手をいじめてやろうとするタイプ。

 三つ目は指導方法が分からず殴ってしまう。四つ目は思わず手を出してしまう指導者だ。

 一つ目と二つ目は論外で、スポーツの世界から去ってもらうしかない。

 ただ三つ目と四つ目は、...

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