〈時代の正体〉ルーツは誇り「子どもに勇気を」川崎・桜本のフィリピンルーツの母|カナロコ|神奈川新聞ニュース

〈時代の正体〉ルーツは誇り「子どもに勇気を」川崎・桜本のフィリピンルーツの母

ロペスさんの思いを聞く桜本地区の教員ら=市立さくら小

【時代の正体取材班=石橋 学】まな娘を膝の上に抱く若き母は、はにかみながらも前を見据えて思いを伝えた。在日コリアンをはじめさまざまな国籍・民族の人々が暮らす川崎市川崎区桜本で開かれた集い。「先生方には子どもたちに勇気をあげてほしい。自分の親を自慢に思ってほしいから」。フィリピンルーツの若者が語り起こす言葉が教員たちの胸に静かに響いた。

 半年に1度開かれる「在日の想いに語る会」。地域で子どもたちに関わる多文化交流施設・市ふれあい館と桜本保育園、市立さくら小、同桜本中の職員らが集い、ゲストの思いに触れ、課題を語り合う。23年間続く会は6月22日に40回を数えた。地域ぐるみでの共に生きるまちづくり、市が掲げる人権尊重教育の実践を象徴する場だ。

 この日のゲスト、ロペスさん(18)は仕事を求めてフィリピンから日本に渡った両親の間に生まれた。桜本に育ち、学び、日本人の幼なじみをパートナーに得て、高校に通っていた16歳の時、母となった。

 桜本小(現さくら小)に入ってすぐ先生に名前を間違えられ、笑いが起きたこと。先生も一緒に笑っていたこと。「自分の名前が嫌いになった」。ロペスさんがつらい記憶を呼び覚ましながら語る。日本語が分からず学校との連絡がうまく取れない両親を「恥ずかしく思ってしまった」とも。言葉や文化風習の違う異国で懸命に働き、子育てする苦労に思いが至らなかった自分に声を詰まらせた。

 転機は桜本中時代、在日コリアンの教員との出会いだった。差別の現実を前に日本名で教壇に立つ担任と言い合いになった。「先生も本名(民族名)を名乗りなよ。私みたいに長くないし、漢字だし、どこが恥ずかしいのって。すると先生は『自分はきょうだい3人全員名前で差別された』『君の名前は格好いい』って」

 そんな会話から、抱えた葛藤は親が悪いのでも自分が弱いからでもなく、ルーツの否定を強いる社会があるからだと気付かされた。授業参観でフィリピン人の親同士、わが子を前にうれしそうな大声を響かせる父親がむしろ好ましく思えるようになった。

 ロペスさんの膝の上で間もなく2歳になる長女がすやすやと寝息を立てている。いま、地域の高齢者のデイケア施設で働く。在日1世のハルモニ(おばあさん)たちとの会話が楽しく、いとおしい。「つらく大変な経験を聞き、自分の悩みは小さなことだったと思えた。今は在日外国人だということが自慢。ダディーとマミーにも感謝しかない」

 だから、と続けた。「自分は恥ずかしいと思ってしまったけれど、子どもたちには親を自慢してほしい。そうして自分を受け入れられるよう先生方には、子どもたちに声を掛け、勇気をあげてほしい。先生が頼りだから」

 外国にルーツがある子どもや家庭の支援を続ける市ふれあい館の取り組みから翻訳・通訳ボランティアが制度化され、学校も親への手紙を分かりすく表記したり、多言語に訳したりといった改善が進んだ。この日も教員たちから「こちらの都合ではなく、ニーズに合った支援が必要」との声が上がった。初めて参加した市教育委員会の大野恵美人権・共生教育担当課長は「私にできるのはこの地域の取り組みを広めること」と約束した。

 「18年しか生きていない私の話、大丈夫だったかな」。大役を終え、ロペスさんは思いを新たにしたように言った。「心配もあるけど、この子がルーツを自慢できるように育てる」。おなかには第2子が宿っている。

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