〈時代の正体〉平和願い朝鮮戦争語る 在日1世のハルモニたち|カナロコ|神奈川新聞ニュース

〈時代の正体〉平和願い朝鮮戦争語る 在日1世のハルモニたち

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2018/06/20 11:52 更新:2018/06/20 11:52
【時代の正体取材班=石橋 学】在日コリアンにとっても「6月25日」は特別な日だ。70年余の南北分断を固定化した朝鮮戦争が始まった日だからだ。歴史的な米朝首脳会談が実現し、戦争終結も現実味を帯びる中、川崎市川崎区桜本で在日1世のハルモニ(おばあさん)たちが19日、戦争体験を語り合った。まだ見ぬ平和のために-。

 毎週火曜日、アリランを歌い、おしゃべりを楽しみながら昼食を囲む。在日高齢者交流クラブ「トラヂの会」の集いにこの日、特別なプログラムが組み込まれた。「625(ユギオ)に寄せて」-。会の運営を担うスタッフが「ハルモニの経験を自分たちの世代に生かしたい」と企画した。悲惨な体験ゆえ証言を求めることもはばかられてきたが、南北、米朝の歴史的和解の動きが後押しになった。

 「8人きょうだいで避難もできず、松の皮を食べておなかの足しにした」。口火を切ったのは黄(ファン)徳子(トクチャ)さん(77)。「海は血で染まり、遺体は穴に埋めた」。母は北朝鮮に生き別れた長男を思い続けたといい、「会えずに亡くなったのが悔しい。平和になれば私が兄に会いに行く」。

 李(イ)鎔憲(ヨンホ)さん(80)は「私の家の前で戦闘が起き、おじさん2人が亡くなった」と語った。「みんなで協力して平和な世界をつくってほしい。日本も近くの国なんだから」

 「ソウルの街中で死体をたくさん見た」と当時の状況をせきを切ったように語るハルモニがいて、「どうしても話せない」と目を伏せるハルモニがいる。軍にかり出された父を失い「北朝鮮が大嫌い」という憎しみが口を突き、深い悲しみを表すように「どちらも同じことをしてしまった。許す許さないじゃない」との声が上がった。

 トラヂの会は1998年、厳しい差別にさらされてきた在日1世たちにせめて老後は心安らかに過ごしてほしい、と桜本で差別のないまちづくりに取り組む社会福祉法人青丘社の事業としてスタート。識字学級で覚えた日本語で作文を書き、絵を描き、発表会を開き、地域のイベントで朝鮮の民謡を歌い、踊りを舞い、そうして長い年月をかけ、ハルモニたちは差別で凍てついた心を開き、自分たちの思いを表現できるようになってきた。

 安全保障関連法の成立が迫った2015年9月には戦争反対を訴えるデモを企画。チマ・チョゴリ姿で「子どもを守れ、若者守れ」と声を上げながら桜本のまちを行進した。その後、桜本を襲ったヘイトデモに痛む足腰を押して抗議に立ち、国会議員や市長、市議を前に「子や孫の世代になって、なぜいまさら出て行けなどと言われなければならないのか。いつまで差別されなければいけないのか」とヘイトスピーチに反対する思いを届けてきた。

 運営スタッフで在日3世の金(キム)正姫(ジョンヒ)さん(53)は「ハルモニたちは戦争反対のデモをしたり、ヘイトスピーチ反対の声も上げたりしてきたが、体験から得た力のある言葉なのだとあらためて感じた」。今年9月、会の発足20年を記念した催しで発表する劇の脚本にこの日の証言を生かしたいといい、「より大きくは、二度と同じ目に遭ってほしくないというハルモニたちの思いに応え、平和な社会を築く責任が私たちにはあるのだと、思わせてもらった」と話した。

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