〈時代の正体〉ヘイト集会阻んだ市民の力 差別根絶への意思示す|カナロコ|神奈川新聞ニュース

〈時代の正体〉ヘイト集会阻んだ市民の力 差別根絶への意思示す

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2018/06/04 08:58 更新:2018/06/04 15:59
【時代の正体取材班=石橋 学、桐生 勇】ヘイトスピーチを許さない市民の力がまた、示された。人種差別扇動家、瀬戸弘幸氏の講演会が3日、市民の抗議で中止に追い込まれた。ヘイトスピーチ解消法の施行からちょうど2年。露見した未完のヘイト対策の課題を刻み、市民社会は差別根絶への道筋を見据えた。

 「彼らの講演会は中止になりました」。午後2時40分ごろ、市民団体「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」のアナウンスが響き、約400人の市民から拍手が起こった。

 確信的に差別を繰り返すレイシスト(人種差別主義者)による人権侵害を未然に食い止める。差別を二度と許さないという強い思いが最後のとりでとなった。

 「高橋が来たぞ」「こっちに遠藤がいるぞ」

 ヘイトデモの現場でレイシストと対峙(たいじ)してきたカウンターの怒声を合図に、地域住民や市内外から集まった市民、市民運動のメンバーが一人一人を取り囲んでいく。民族虐殺をうたい、在日コリアン集住地区の桜本の街を標的にした「日本浄化デモ」をはじめ、市内外で行われてきたヘイトデモの常連参加者。県警が別の入り口に誘導しようとしたが、体を横たえるシット・インで行く手をふさいだ。1時間半にわたった非暴力の直接行動。警察官に促され引き返していったレイシストは十数人に上った。

 2年前の6月5日の光景を彷彿(ほうふつ)とさせた。解消法施行3日目、川崎市中原区で強行された「日本浄化デモ第3弾」は千人規模の抗議に取り囲まれ、10メートルしか進めなかった。この日も県警は市民を強制的に排除しようとはしなかった。

 平塚市から駆け付けた男性は言う。「警備でレイシストとの間に立つ市の職員が『私も高校時代の友人に朝鮮人がいるんです』と。一人一人にそうした思いがある。これが川崎という街の強さなのだろう」。共生の街に土足で踏み入り、分断を刻むヘイト集会はだからなおさら許されず、分厚い人垣は築かれた。

 だが、川崎市は、市民が体を張らずとも行政施策として市民を守るガイドラインを持ちながら、予防措置を取らなかった。日本浄化デモ参加者でもある瀬戸氏は、市民の抗議や市のヘイト対策を「言論弾圧」と言い募り、自身の差別言動を正当化することで敵意をあおり、訴訟までもちらつかせた。この日講演予定でやはり会場入りできなかった徳永信一弁護士は「威力業務妨害で訴える」と言い残して立ち去った。

 安寧を取り戻した街の公園。市民ネットワークの三浦知人事務局長は「市民の力で延期に追い込むことができた」と集まった市民の輪を見渡し、「宿題も確認した。ガイドラインでは不十分。条例で差別を禁止し、悪いことをしたら警察が取り締まる。当たり前の社会を築くため、条例の早期実現が待たれる」と力を込めた。

 「ヘイト集会が予告されてから1カ月、ヘイトスピーチを未然に防ぐガイドラインの適正な運用を求め、川崎市、頑張れと励ましてきた。残念ながら今回の市の対応は不作為と言わざるを得ない」

 桜本で差別のない共に生きるまちづくりに取り組み、この日も最前線に立った在日コリアン3世、崔(チェ)江以子(カンイヂャ)さん(44)はそう切り出し、市民と議会、行政が一体となった「オール川崎を再び」と呼び掛けた。

 「私たちはきょうも負けなかった。闘う相手は市でも議会でもない。判断の誤りという失敗を糧に差別根絶へより強く進んでいく。市民の行動とヘイト集会ができなかった事実によって、その歩みが確かめられた」

PR