時代の正体〈587〉命を守る判断こそ 日本第一党「虐殺宣言」|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈587〉命を守る判断こそ 日本第一党「虐殺宣言」

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  • 公開:2018/04/12 06:00 更新:2018/04/12 10:53
「日本浄化デモ」を防ごうと道をふさぐ市民とデモ隊に向かい合う警察官=2016年6月5日、川崎市中原区

「日本浄化デモ」を防ごうと道をふさぐ市民とデモ隊に向かい合う警察官=2016年6月5日、川崎市中原区

【時代の正体取材班=石橋 学】 「木の上からぶら下げる」「断固処分する」。日本第一党の桜井誠党首による人を人と思わぬ「虐殺宣言」を笑い声を立てて聞いていた人物がいる。講演会に同席していた日本第一党最高顧問、瀬戸弘幸氏。桜井氏と並ぶ差別扇動者は川崎市で進むヘイトスピーチ対策の妨害を狙い、6月には市の会館を借りて集会を開くと予告している。公的施設でのヘイトスピーチを事前規制するガイドラインが命を守る砦(とりで)になる。

 発想、思考回路がおぞましい。統一地方選の立候補予定者5人が紹介された席上、瀬戸氏は不満を口にしてみせた。「川崎に候補者がいないのが残念。川崎問題も神奈川の問題なのだから」

 「川崎問題」という物言いからして錯誤もはなはだしい。在日コリアンを標的にヘイトスピーチを繰り返しているのは瀬戸氏自身にほかならないからだ。

 話は2016年6月にさかのぼる。瀬戸氏も参加した「川崎発日本浄化デモ」は抗議の市民に囲まれ、中止に追い込まれた。前段では主催者の公園使用申請が福田紀彦市長によって不許可とされた。「市民の安全と尊厳を守る」。憲法が保障する表現の自由を逸脱した人権侵害にほかならないからこその判断。ヘイトスピーチ解消法の成立・施行直後、高まる反ヘイトの機運が後押しした。

 だが、瀬戸氏は「左翼と在日勢力による言論弾圧だ」と倒錯した批判を展開。市のヘイト対策阻止を公言し、17年3月と12月に集会を主催、同7月にヘイトデモを実行した。以前と変わらずヘイトスピーチができると示し、対策は無力と思わせるのが狙いだった。

 思惑は外れているどころか逆効果を生んでいる。公園使用の不許可判断を制度化すべく、公的施設の貸し出しに関するガイドラインが全国で初めて策定された。瀬戸氏が対策をかいくぐろうと画策するたび、福田市長がマニフェストに明記した差別根絶条例の必要性は増している。

 ヘイトが目的化した確信的差別主義者はしかし、マイクを握ると講演参加者約70人の前で6月の集会開催を宣言し、さらなる妨害を呼び掛けた。

 「6月の市議会でヘイトスピーチに関する審議がある。傍聴へ行くと言うと、反対する連中が大騒ぎする可能性がある。逆に自分たちの宣伝になるので、立候補予定者は傍聴へ行くと宣言すると面白い。そのときは私も行く」

 面白い-。「ふふふ」と笑いながら指南する、これのどこが政治なのか。

被害はすでに生じ


 そう。差別者たちは娯楽のように人をおとしめることを楽しみ、見下しの笑いを見せつけながらマイノリティーの心を殺してきた。

 想像されたい。危害を加えると公言する政治団体のメンバーが傍聴席にいる。身の危険を覚え、どうしてその場に足を運べよう。選挙権がない在日コリアンが、それでも対策を切望する姿を届けたいと続ける傍聴の権利はそうして奪われる。

 つまり予告自体が迫害であり、排除という実害を生じさせ、6月の集会予告はだから重大な意味を持つ。いつどこで行われるのか、インターネットでチェックする日々がすでに始まっている。当日、会場の施設に近づけないだけではない。差別者たる参加者と鉢合わせないよう最寄り駅を使うのも避けざるを得ない。集会の自由はおろか行動の自由が侵される。

 公的施設が差別の舞台となれば、自分たちは市民の安全と尊厳を守るべき行政機関にさえ守られない存在なのだという絶望をもたらす。身近な公的施設が使えなくなる。それは地域社会からの排除を意味する。

 集会の動画はネットで拡散され、被害は施設利用者にとどまらない。恐怖と屈辱が出自をひた隠しに生きる沈黙の人生を強いる。そして-。

 いつか心だけでなく本当に殺される。恐怖はもはや杞憂ではない。在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部に銃弾が撃ち込まれたテロが記憶に新しい。差別感情を動機とするヘイトクライム(憎悪犯罪)は川崎でも起きている。

 ヘイトデモ参加者が帰りの川崎駅ホームで居合わせた男性を模造刀で切り付ける事件が起きたのは14年2月。デモに反対するカウンターと勘違いしての犯行だったが、敵とみなされれば、危害が加えられることを示している。

 16年3月には極右政治団体「維新政党・新風」が川崎駅前で行った街宣活動で集団暴行事件が発生。「ヘイトをするな」と抗議した男性に街宣参加者が殴る蹴るの暴行を加え、4人が逮捕されている。弁士の1人が瀬戸氏だった。

差別根絶の姿勢で


 集会、デモ申請の際、瀬戸氏は「ヘイトスピーチはしない」と繰り返す。では、17年12月の集会はどうだったか。「死ね」「殺せ」のあからさまなヘイト発言はなかった。だが、瀬戸氏を含め4人の登壇者は代わる代わるデマを吐き、敵意をあらわにし、在日コリアンを排斥するメッセージを伝えた。動画はユーチューブにアップされ、コメント欄への視聴者の書き込みが効果を物語る。

 〈通名(偽名)使用の在コは、発見次第則射殺しても良い(合法)という法律を制定して下さい!〉

 差別扇動の目的は達せられたのである。

 市の対応の不十分さは指摘しておかねばならない。市教育文化会館の使用申請の可否は、運用前のガイドラインを準用して判断していた。不許可の判断は「差別的言動が行われる恐れが客観的な事実に照らして具体的に認められる場合」(言動要件)に加え、「他の利用者に著しく迷惑を及ぼす危険のあることが客観的な事実に照らして明白な場合」(迷惑要件)に限られる。申請書類や申請者の活動歴、告知情報などから検討した結果は「言動要件に当たらない」。申請団体は集会のために新たに発足したもので、ヘイトスピーチを行った実例がなかった。告知する瀬戸氏のブログ記事からもヘイトスピーチを行うとの確証が得られなかった。つまり形式上の判断にとどまっていた。

 「市職員としての判断はこれが限界だった」。市の担当者は苦々しげに振り返る。

 だが、これも準用段階のもの。「限界があるからこそ、第三者機関を設ける必要があった」と担当者は言う。不許可の判断に当たって意見を仰ぐ第三者機関「ヘイトスピーチに関する部会」が立ち上がったのは3月31日。専門的知見から最終決定を導き、恣意(しい)的な判断や過度の規制にならないよう公平性、透明性を担保するこの仕組みがガイドラインの要諦だ。担当者の発言は今後は異なる判断を下し得ると示唆している。

 ヘイト対策の提言をまとめた市人権施策推進協議会前会長で、部会長に就任した阿部浩己・明治学院大教授も語っている。

 「ヘイトスピーチの本質は何か。それは差別だ。ヘイトスピーチがもたらす被害の重大性、本質を踏まえ、被害を極力小さくする、出さない、防止する姿勢は譲らずに判断を示していければ」...

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