時代の正体〈581〉誰のための学校なのか 北綱島支援校再編問題|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈581〉誰のための学校なのか 北綱島支援校再編問題

記者の視点=デジタル編集部・成田洋樹

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2018/02/22 02:20 更新:2018/02/27 16:57
【時代の正体取材班=成田 洋樹】学校は誰のためにあるのか。重度重複障害がある子が多く通う横浜市立北綱島特別支援学校(同市港北区)の再編問題を巡って、その問いが頭から離れない。

 同校には、たんの吸引や胃ろうなどの医療的ケアが必要な子が多い。その割合は65・2%(69人のうち45人)に上り、市立肢体不自由特別支援学校5校の中で最も高い。体調急変のリスクを抱える子がそれだけ多い。

 この3年間で3人の在校生が亡くなった。短命とされる難病を患い、死と隣り合わせで生きている子がいる。朝の登校前は元気だった子が体調急変で呼吸が不安定になり、学校から救急搬送されたこともある。

 学校に通うのは子も親も大変だ。スクールバスで1時間以上かかる子もいる。乗車中に医療的ケアが必要な子は原則としてバス通学ができない。母親らが自力で車に乗せて送り迎えをせざるを得ない。子どもの体調を気にしながらハンドルを握り、停車してたんの吸引をすることもある。夜間のケアで睡眠時間は短い上、細切れのために疲れが取りにくい。居眠り運転しないように神経をとがらせている。

 それでも学校に出向けば、先生たちが笑顔で出迎えてくれる。子どもたちはこぢんまりとした校舎の教室やホールで友達と一緒にボールゲーム「ボッチャ」や習字を楽しむことがあれば、隣接する市立北綱島小学校の子どもたちが遊びにやってくることもある。教室からはにぎやかな笑い声が廊下に響いて伝わってくる。

 そんな学校に突然の閉校計画が持ち上がったのは2015年9月のことだった。保護者に事前の説明はなく、3年半後の19年度から別の特別支援学校への転校を迫るものだった。

 アットホームな北綱島の雰囲気が気に入って学校のそばに引っ越してきた家庭がある。子どもの体力を考えると通学に時間がかかる転校先には通えず、転居が脳裏に浮かんだ母親もいる。転校先が遠いのであれば学校へ行くこと自体を諦めざるを得ないと考え込んだ保護者もいる。生活設計が狂いかねない上、何より慣れ親しんだ北綱島を離れることは先生や友達と時間をかけて育んできた関係性が断ち切られることを意味した。

妥当な政策か


 保護者たちは閉校撤回を求める活動を始めた。子どもの居場所がなくなることへの不安からだけではない。人口が増えている市北東部を支援学校の空白区域にする計画は、障害者政策として妥当なのかを問うものだった。実際、公立支援学校の関係者の目には「ありえない計画」と映った。あえて空白を生じさせる理由が見当たらず、子どもたちの学ぶ権利を奪いかねないからだ。少なくとも、北綱島に通う子どもたち一人一人にとって教育環境の悪化は明らかだった。

 保護者の反発を受けて閉校計画は公表から3カ月後に撤回され、在校生が高等部を卒業する26年度まで分教室として残す案が市教育委員会から示された。だが、いずれ閉校することに変わりはない。さらに17年10月には分教室の期限を撤廃する案が示されたが、条例に定めがない分教室では市教委の一存で閉じられる恐れがあった。一方的にまとめられ公表された閉校計画に透ける無理解と配慮の欠如は、容易にぬぐえない不信感を保護者に刻みつけたのだった。

 それから3カ月後のことし1月、市教委は条例に定めがある分校案を示し、教職員数などは現行水準を維持し、校長級の准校長を置くと説明した。分校を閉校する場合には市会の議決が必要になるため一定の「歯止め」は掛けられている。だが、保護者たちはますます疑問を募らせた。

 「いまの学校とほとんど変わらないのであれば、なぜ分校にする必要があるのか」

 子どもの命に関わることが起きた場合、本校校長と分校准校長の間で責任の所在が不明確にならないかといった新たな不安も生じた。

 対する市教委は「未就学児の進路相談を控えており、17年度中に方向性を決めたい」として分校案を市会に提案したい意向を示した。

 「学校教育法では支援学校の設置義務は県にある。そうした中で市は肢体不自由特別支援学校を独自に5校整備してきた。だが、これ以上校数を増やすことは難しい」

 19年度に旭区に左近山特別支援学校を新設するため、北綱島は本校としては残せない。だが、位置づけを分校に変更すれば、北綱島を残したまま、数字の上で5校体制を維持できるというわけだ。

 20年度に青葉区内に新設される県立特別支援学校も含めれば、市内の肢体不自由の子どもはすべて受け入れ可能という見通しも分校化の根拠として挙げている。

 だが、そもそも5校体制でなければならない明確な理由を市教委は示せていない。
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