時代の正体〈576〉地域から根絶の声を 条例はなぜ必要か(4)|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈576〉地域から根絶の声を 条例はなぜ必要か(4)

ヘイトスピーチ考

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2018/02/09 13:00 更新:2018/02/10 01:30
時代の正体取材班=石橋 学】差別に抗する声を束ね、ヘイトスピーチ解消法の制定にも寄与したとして神奈川県弁護士会から人権賞が贈られた「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」。贈呈式に続いて開かれたシンポジウムで、「ヘイトスピーチとは何か」(岩波新書)の著書がある師岡康子弁護士は解消法の条文を手に聴衆に呼び掛けた。「それぞれの地域で声を上げてほしい」

 地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動が行われ、本邦外出身者は多大な苦痛を強いられるとともに、地域社会に深刻な亀裂を生じさせている〉〈不当な差別的言動は許されないことを宣言するとともに、解消に向けた取組を推進すべくこの法律を制定する(前文)

 解消法の一番の意義は、国が初めて深刻な差別の存在を認め、なくすための法律を制定したことにある。禁止・処罰規定のない理念法だが、国や自治体は解消に取り組まなければならない。初の反人種差別法はヘイトスピーチを含む差別の根絶の出発点になり、具体的に生かすことで差別と闘う武器になる。

 回数こそ若干減ったもののレイシストによるヘイトデモや街宣は続いている。ヘイトスピーチをなくすには解消法を実効化させる、具体的効果がある施策を作っていくことが必要だ。

 とりわけ国の取り組みが遅れている。たとえば、インターネット上のヘイトスピーチ対策。各国共通の課題となっており、欧州委員会はグーグル、ツイッター、フェイスブックなどのネット企業大手と協議し、各社がヘイトスピーチの削除に取り組むことで合意した。さらにドイツでは24時間以内に対処しなければ最大5千万ユーロ(約67億円)もの罰金を科す規制法を施行している。

 日本でも政府が業界と協議することは最低限できる。各社は差別を禁じた自らの規定にのっとり、適切に運用するよう求めるのは可能だ。対策を取る上でネットヘイトの実態調査も欠かせないだろう。

川崎モデル


 差別的言動の内容や頻度は地域によって差があるものの、地域社会に深刻な亀裂を生じさせている地方公共団体においては、国と同様に、その解消に向けた施策を実施すること(参院法務委員会付帯決議)

 ヘイトスピーチを食い止め、差別をなくしていくために大事なのは、被害の現場となっている自治体での取り組みだ。

 解消法を根拠に具体的な対策が進んでいるのが川崎市だ。15年5月にヘイトデモ主催者の公園使用を不許可にし、昨年11月にはヘイトスピーチを行うことが明らかな場合、公共施設の利用を制限するガイドラインを策定した。第三者機関が行政の恣意(しい)的な判断の歯止めとなり、集会の自由の侵害を防ぐ意味でも重要な施策だ。愛知県や東京都江戸川区など施設の利用規約を改正したところもある。

 ネット対策の試験運用も始まっている。市民に関係する差別書き込みを行政がチェックし、削除要請する。人権行政として関西の自治体を中心に実施されているものを参考に進められている。大阪市は条例に基づきヘイト動画の削除要請とハンドルネームの公表を行った。ヘイトデモが行われているところも、ないところもあるが、インターネット上の差別は全国共通だ。マイノリティーの市民がいれば、被害者がいる。衆参両院の付帯決議では対策の実施がうたわれており、全ての自治体が取り組まなければならない。

 実効化に欠かせないのが条例だ。解消法が示す施策は「相談体制の整備」「教育の充実等」「啓発活動等」と抽象的で、禁止・処罰規定も財政措置も盛り込まれていないからだ。

 川崎市では人種などに対する差別をなくす条例づくりが進んでいる。日系ブラジル人が多い群馬県大泉町では理念条例が既にあり、名古屋市や神戸市は市や市議会がヘイト対策条例を作ると明言している。東京都世田谷区では既存の条例に多文化共生の視点を加え、差別の禁止を盛り込んだ改正が行われようとしている。

隠れた意義


 国民は不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない(第三条・基本理念)

 国や自治体を動かしていくのは世論、皆さんの声だ。法律があるのだから、法の実効化を求める声を否定することはできない。

 自治体の条例化が国を動かすことにもなる。実際、障害者差別も女性差別も先に動いたのは自治体だった。各地で差別撤廃条例が制定され、それが世論となり国を動かし、障害者差別解消法や男女共同参画基本法につながった。

 国際世論も追い風にしたい。今年8月には国連人種差別撤廃委員会の審査があり、厳しい勧告が予想される。2020年に東京五輪が開催されるが、五輪憲章では人種差別禁止をうたっている。平等が実現されていなければ公平に競い合えないからだ。22年冬季五輪からは人種差別禁止条例がない都市は開催することができない。本来なら東京都だけでなく、セーリング競技の会場となる神奈川県も条例が求められている。

 解消法の隠れた一番の意義は世論によって国を法制定に動かしたことだ。被害者が声を上げ、ヘイトデモの現場でカウンターがレイシストの前に立ちはだかり、報道機関も連日ヘイトスピーチ問題を取り上げ、自治体から200を超える意見書が出て、初の反人種差別法ができた。市民、行政、議会の「オール川崎」で取り組んできた市民ネットワークはその実例で、精力的に活動を続けた結果、条例ができつつある。...

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