時代の正体〈573〉共に闘う仲間と歩み 条例はなぜ必要か(1)|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈573〉共に闘う仲間と歩み 条例はなぜ必要か(1)

ヘイトスピーチ考

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2018/02/07 02:42 更新:2018/02/07 10:41
【時代の正体取材班=石橋 学】神奈川県弁護士会が選ぶ第22回人権賞に市民団体「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」が選ばれた。地域に暮らす在日コリアンを標的に川崎市川崎区桜本を襲ったヘイトデモに抗(あらが)いの声を上げ2年余り、差別の根絶へ人種差別撤廃条例の制定を求める活動は続く。4日、横浜市開港記念会館で行われた贈呈式、併せて開催されたシンポジウムから、なぜいま条例なのかをあらためて見詰める。

 受賞のあいさつに立った裵(ペ)重度(ジュンド)さん(74)は「この場で、こうした話しをするのがふさわしいのか分かりませんが」と切り出した。桜本で差別のないまちづくりに取り組む社会福祉法人青丘社(せいきゅうしゃ)の理事長を務める在日コリアン2世。強調しておきたいメッセージがあった。

 「賞は当初、当事者である崔(チェ)江以子(カンイヂャ)に贈ろうという声があったと聞きます。その話を伝え聞き、自分一人が個人として受けるのではなく、市民ネットワークが受けるべきだと申し伝えたという経緯がありました」

 わが街、桜本を目掛けて2015年11月、16年1月と繰り返された、タイトルからしておぞましい「川崎発日本浄化デモ」では「朝鮮へ帰れ」「死ね」「殺せ」と殺害の呼び掛けまでが叫ばれた。生きることを公然と否定されるという絶望を刻みつけられながら、身を削り発してきた「差別をやめて共に生きよう」の訴え。在日3世の崔さんから語られた当事者の痛み、苦しみがヘイトスピーチの害悪を浮き彫りにし、ヘイトスピーチ解消法の成立の決定打となり、川崎市のヘイト対策を後押ししてきたのは確かだった。

 一方、ヘイトスピーチとの闘いは「在日コリアン対差別主義者」という構図ではないはずだ、事実、当事者だけの闘いではなかった、との思いがあった。

 市内外165団体からなる市民ネットワークは「オール川崎」の名の下に結成された。呼び掛けの中心となった青丘社が40年余、大切に育んできた「共に生きる」の理念がここでも掲げられた。

 「振り返れば戦後70年余、私たちはさまざまな制度から排除されてきた。制度的差別の一つ一つに私たちは日本の排他性、閉鎖性を見て、闘ってきました」

 1980年代、桜本から全国に広がった指紋押捺拒否運動が象徴的だ。在日外国人を治安の対象、犯罪者予備軍とみなす外国人登録法に「否」を突き付けた当事者たちの抵抗運動は、人間らしく生きたい、同じ人間として共に生きようという根源的な叫びが日本社会の共感を呼んだのだった。

 差別があれば共になど生きられない。差別が隣人を痛めつける社会が日本人にとって生きやすい社会であるはずがない。ならば共に立たん。それは「日本社会へのラブコール」だった。

 指紋押捺拒否者には「嫌なら出ていけ」「朝鮮へ帰れ」と脅迫状が次々と送りつけられた。

 「いまで言うヘイトスピーチはすでにあった。排外意識は途絶えることなく今日に継続し、そうした声が公に語られ、叫ばれる。恐怖もあるが、怒りが先立ちます」

 渦巻く激情を押しとどめ、この国の行方を足元から見詰めた。

 「障害がある人も、男も女も、貧乏人も金持ちも、日本人も外国人も地域で共に生きていこう。福祉と人権が確立した地域社会をつくりたいと実践を重ねてきた」

 日本人も外国にルーツを持つ子どもも分け隔てなく交流する川崎市ふれあい館の運営の委託を受け、高齢者や障害者の施設も手掛けるようになった。ヘイトデモはそうした地域に根ざした歩みへの挑戦だった。

 きっかけは在日1世のハルモニ(おばあさん)たちが戦争反対を唱えるデモ。安全保障関連法案の国会審議がヤマ場を迎えていた。植民地支配による差別でより厳しい戦争体験を強いられたからこその切実な願い、受け止めてもらえると思える桜本だからこそ表現することができた訴えに、レイシストは「朝鮮人の分際で国に盾突くなど許されない。われわれが桜本でデモして、ここが日本だと思い知らせてやる」と見下しの差別心をたぎらせ、「韓国、朝鮮は敵国だ。敵国人に何を言っても構わない。ゴキブリ朝鮮人をぶち殺せ」と叫んだ。地域の安寧を壊す差別者は社会全体を破局に導く平和の破壊者でもあった。

 裵さんは信じたい。

 「ヘイトスピーチに対抗する多くのカウンターの人々、多くの川崎市民、川崎以外の日本人市民が立ち上がってくれた。口幅ったい言い方をすれば、私たちが共生を目指してきた地域の実践があり、だから共感を呼び、多くの市民が駆け付けてくれたという思いがある。この社会はまだ捨てたものではない。連帯すべき場があり、人々がいる。そうした勇気に支えられてもいます」

 スピーチの締めくくり、やはり呼び掛けるのをやめなかった。

 「市井の活動を県弁護士会に拾い上げていただいた。受賞は名誉なことで、励まされる思い。感謝と同時に、この場に集まった皆さんにヘイトスピーチ根絶への闘いに連帯していただきたい」

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