時代の正体〈565〉「やせ我慢」こらえ切れず 森達也さん×高橋源一郎さん|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈565〉「やせ我慢」こらえ切れず 森達也さん×高橋源一郎さん

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2018/01/08 06:00 更新:2018/01/08 06:00
時代の正体取材班=石橋 学】オウム真理教の信者が公衆の面前で公安警察に押し倒され、不当に逮捕される一部始終を映像に収めた。カメラを構えた背中越しに通りすがりの人々の声が届いていた。「やれ、やれー」「殺しちゃえー」。それから20年余り。映画監督の森達也さんは、社会にあふれ出る憎悪の背後に実態とかけ離れ肥大する恐慌を見る。作家の高橋源一郎さんと対談した公開セミナーで語った「危機」の源と、その末路とは-。

 高橋さん ドキュメンタリー映画「A」「A2」ではオウム真理教の人たちを「悪」と描かなかった。バッシングも浴びたが、社会通念から離れた視点は一貫している。政治権力、社会、メディアの関係と変化を追ってきた森さんは現状をどう見ているか。

 森さん 1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件以降、日本社会は大きく変わった。一つが厳罰化だ。2001年の米国同時多発テロ後、テロをキーワードにした世界的な現象だが、治安が悪化している、安全が脅かされているという不安や恐怖が強くなったことが背景にある。

 だが、日本の治安の良さは世界一だということをほとんどの国民が知らない。実態とは違って、この国はみんなが感じる「体感治安」がとても悪い。

 対外的な体感治安もそう。隣の国がいつミサイルを撃ってくるか、尖閣諸島に押し寄せてくるか分からない。だから、守りを固めないといけない。敵の基地を攻撃しなければいけない。そのためには憲法が邪魔だ。だから変えよう。この20年、国内的にも対外的にも飽和した不安と恐怖があふれ出し、回りは敵だらけという意識によって、この国は軌道を変えようとしているのではないか。

もはや三流国


 高橋さん 確かに社会はまずい方向へ行っていると思う。でも、政治権力が悪くて、われわれが被害者で、権力者を取り替えればいい社会が戻ってくるのか。われわれも共犯ではないのか。たとえば、オウム真理教の教祖、麻原彰晃に対して、残虐なことをしたのだから法が適用されなくてよい、人権が守られなくてよいと、みんながどこかで思っている。それが怖い。問題は社会の側が政治権力に抵抗する気がないということではないか。

 森さん 社会とメディアと政治は三位一体だ。そして、テレビがどうしようもないのは認める。

 だが、メディア自体にはほとんど意思がない。読者の声や視聴率という市場原理、つまり社会が反映され形作られている。

 マスコミはよく「マスゴミ」と言われる。でもそれはあなたがゴミで、社会がゴミで、社会が選んだ政治家がゴミだということ。NGO「国境なき記者団」が発表している各国の報道の自由度ランキングで日本は72位だ。民主党政権時代の11位から安倍政権になってどんどん下がり、ガーナやホンジュラスより下。メディアが72位ということは、僕らの社会も72位で、その僕らが選んだ政治家の政治は世界72位ということだ。

 この国は三流国だと認めるところから考え始めないといけない。10年、20年前と違い、僕らもSNSというメディアを持っている。僕らが変わればメディアは変わる。相互作用で社会も変わっていく。そうした社会に選ばれた政治家は、いまよりまともになり、国会でも論理的に論戦をしてくれるんじゃないか。

 高橋さん 実際には、インターネット上では結論ありきの人たちが罵声を飛ばし合っている。オウム以降、あるいは「3・11」以降、この国は大きく割れ、自分たちと、それ以外のまったく理解できない「敵」という図式で分断が進んでいる。他者をすべて敵とみなす非寛容な考えに僕ら自身が流され、不自然と思わなくなっている。それが怖い。

PR