時代の正体〈564〉岐路の憲法【5】 闘う相手は誰なのか |カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈564〉岐路の憲法【5】 闘う相手は誰なのか 

安倍改憲考

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2018/01/07 23:25 更新:2018/01/09 17:14
【時代の正体取材班=田崎 基】憲法によって権力を縛り、個人の尊厳や人権を守る「立憲主義」をないがしろにしようとする為政者が改憲に手をかけようとしている。憲法を破壊する策動に対し「そうであるなら立憲主義を取り戻すために権力を縛る『改憲』をしよう」という「立憲的改憲論」が注目を集める。一方、この新たな対抗軸について「首相の土俵に上がるべきではない」との批判が吹き出ている。「安倍首相改憲」なるものと、どう対峙(たいじ)するか。

野党こそ主導を


 「立憲主義という国家の基礎が壊されようとしている。立憲主義を取り戻すために、野党の側が改憲論議を主導し先手を打つべきだ」

 こう語るのは衆院議員で立憲民主党の山尾志桜里氏だ。衆院憲法審査会で委員を務める。

 安倍首相による改憲提案に全く賛同できないが、これをはねのけるためには立憲主義への深い理解に基づいた改憲の方向性を示す必要がある、と訴える。

 例えば、安倍首相が打ち出した「9条1項2項を残した上で自衛隊を明記する」という改憲案。「仮に自衛隊を憲法に書き込むのであれば、運用の歯止めになる条文が必要になる」と強調する。

 自衛隊を指揮する内閣の権限をどう明確にするか。国会による統制をどうするか。運用が合憲か否かを巡って司法(裁判所)はどう関与するか。憲法が規定する「国会」「内閣」「司法」という三権分立の統治機構についても新たな規定が不可欠となる。

 憲法は、立法、行政、司法の三権を均衡させ国家権力を抑制し国民の人権を保障することに核心がある。施行70年を経て解釈による運用の末に「グレーゾーン」が肥大化した結果、暴走する権力の歯止めとなる立憲主義が揺らいでいる。だからほぼ全ての憲法学者が「違憲」とした安全保障関連法制成立をも止めることができなかった。

 「安倍1強」政権下で強大化する内閣によって三権の均衡は崩れているのではないか。憲法が本来発揮すべき権力抑制の機能や規範力が弱体化しているのではないか。そうであるなら、立憲主義に基づき、権力の均衡を取り戻す必要がある。そのために憲法を改正することはやぶさかではない-。

 こうした発想に基づく「権力を縛る改憲論」は権力を握る側ではなく、むしろ野党こそがリードすべきであると山尾氏は主張している。

土俵に上がるな


 こうした改憲論を真っ向から否定するのは、9条論に詳しい憲法学者の水島朝穂早稲田大教授だ。

 安倍首相による提案に対しては「そもそも憲法を守るつもりのない振る舞いを繰り返す安倍首相に改憲を語る資格はない」と断じる。

 その上で立憲的改憲論に対し「いま改憲論に乗ってはいけない」と警戒する。

 「安倍首相による改憲提案によって憲法論議は混乱している。そうしたときに『立憲的改憲論』などと言ってさらなる混乱を招く必要はない」

 さらに、違憲の疑いが色濃い安保法制はいまや運用段階に入り、現実的に自衛隊が戦争に巻き込まれる危険性は高まっている。

 「安保法制に違憲性はないのか、現時点までの運用状況を徹底的に検証する必要がある。憲法審査会でまずやるべきはそうしたことであって、立憲的改憲論ではない」

 研究者としてはあるべき改憲についての建設的議論を望むが、改憲自体が目的化した安倍首相が期限を示して一気に進めようとしているいま「冷静な議論ができる状況ではない」と語る。だから対案は必要ない。「安倍改憲NO」が全て、と言い切る。

 安全保障問題に詳しいジャーナリストの布施祐仁氏も「立憲的改憲論」に懐疑的だ。

 「今回の改憲の動きは『安倍首相発』であって国民の側から出てきたものではない。世論調査でも安倍政権による9条改憲には反対の方が多い。憲法は首相や政府を国民が縛るものだ。国民がそれほど望んでもいないのに、首相が勝手に期限を設定して改憲に前のめりになるのは憲法を理解していない証し」と切り捨てる。

 その上で「安倍首相や改憲派は『反対するだけでなく対案を出せ』とよく言う。だが国民が望んでいない改憲を上から押し付けること自体がそもそも間違っている」と批判する。

 「野党の役割は、国民が望んでいない改憲に対案を出すことなどではなく、国民が望む政策の実現のために汗をかくことだ。国民の声に耳を傾けず、民主主義や立憲主義を理解しない安倍首相が設定した『改憲の土俵』に上がってはいけない」とくぎを刺す。

対抗軸巡り賛否


 こうした「安倍首相改憲」の阻止を目指す人たちの間で意見が割れている現状を、市民運動に詳しい太田伊早子弁護士(神奈川県弁護士会所属)は危惧する。

 「いまは『阻止』でまとまらなければいけないはずだ」

 2004年に作家の大江健三郎氏や...

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