時代の正体〈563〉岐路の憲法【4】 歯止め無視、続く暴走|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈563〉岐路の憲法【4】 歯止め無視、続く暴走

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  • 公開:2018/01/07 23:17 更新:2018/01/09 17:14
【時代の正体取材班=田崎 基】憲法を守らぬ為政者が語る、矛盾に満ちた「改憲」に最大の警戒が必要だ。「権力は常に腐敗し暴走する」。この歴史的な反省から権力を憲法によって縛り、個人の尊厳や基本的人権を守ることに「立憲主義」の要諦がある。その憲法を権力者の側が率先して「変えたい」と口にする倒錯にこそ安倍政治の本質が現れている。

檻を壊す為政者


 「もう既にライオンが檻(おり)を壊し、外に出てきているかもしれない」

 こう指摘するのは、「権力」をライオン、「憲法」を檻に例えて「憲法と立憲主義」を分かりやすく紹介した絵本「檻の中のライオン」(かもがわ出版)の著者、楾(はんどう)大樹弁護士だ。

 憲法9条は2項で「戦力の不保持」「交戦権の否認」を定める。戦後自民党政権下でも専守防衛として必要最低限度の自衛権行使が認められるのにとどまり、同盟国を守る集団的自衛権の行使は許されないと解釈してきた。

 しかし安倍政権は2014年7月、その積み重ねた憲法解釈を閣議決定によって覆した。集団的自衛権の一部行使を容認し、15年には安全保障関連法制を強行採決で成立させたのだ。

 楾さんは「憲法という決まりによって縛られた権力者の側が、勝手にその決まりを事実上壊した」と指摘する。いわば「檻」の破壊だ。

 「その後も憲法が定める決まりを破り続けている」と危機感を募らせている。どういうことか。

 17年の通常国会閉会後の6月22日、民進、共産、自由、社民の4野党は憲法53条の「いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求」に基づき臨時国会の召集を求めた。

 しかし安倍政権は国会を召集せず、要求から3カ月たってようやく召集した9月28日の臨時国会、その冒頭で衆院を解散してしまったのだ。

 53条には要求があった場合「内閣は、その召集を決定しなければならない」と政府に義務を課している。そこに裁量の余地はない。

 さらに憲法はその議決を「4分の1以上」とし、国会内の勢力のうちごく少数の野党議員の意見をくんで議論することを求めている。少数意見だからこそ議論を尽くし結論を導き出すことに議会制民主主義の核心があるからだ。

 しかもこのとき臨時国会召集を求めたのは、他ならぬ安倍首相にかけられた森友学園、加計学園問題を巡る疑いについて説明責任を果たさせるためであった。

 ようやく応じた初日に、しかも憲法上身勝手な行使に疑義のある「首相の解散権」を振りかざし、衆院議員472人を失職させ、600億円超とされる国費を投じ総選挙に打って出たのだ。

 憲法研究者らおよそ100人が解散について「議会制民主主義を否定するもの」と非難し「違憲の疑いがある」と声を上げたのはむしろ必然であった。

むき出しの権力


 憲法を都合よく解釈し、あるときは権力行使の後ろ盾にし、あるときは「米国に押し付けられた」と蔑(さげす)み、思い通りにならないところをあげつらって「変えたい」と言い出す。

 そうした権力者の振る舞いを、憲法学者で首都大学東京の木村草太教授は「犯罪者が『刑法を変えろ』と言っているようなもの」と例えた。

 人が人として生まれながらにして人権を有し、互いに協調しながら社会を構成し共に生きていくための英知として編み出したのが「立憲主義」だ。その国家の基礎を破壊しようとするむき出しの権力が、私たちの眼前に迫っている。

 安倍首相が立憲主義の本質をはき違えていることをうかがわせる答弁がある。14年2月3日の衆院予算委。安倍首相は憲法の性格について問われ、こう答えた。

 〈憲法について考え方の一つとして、いわば国家権力を縛るものだという考え方はあります。しかしそれはかつて王権が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方であって、今まさに憲法というのは、日本という国の形、そして理想と未来を語るものではないか、このように思います〉
 1999年に亡くなった憲法学の大家、芦部信喜東大名誉教授の著書「憲法」(岩波書店)をひもとくと、立憲主義に無理解な為政者の姿が浮かび上がる。

 〈「憲法」の最もすぐれた特徴はその立憲的意味にある〉
 〈それは国家権力を制限して国民の権利・自由を守ることを目的とする憲法である〉


布石打ち本丸へ


 改憲を悲願とする安倍首相は10年ほど前から布石を打ってきた。

 初めて政権を手にした2006年9月から07年8月にかけて、「美しい国づくり内閣」と銘打ち組閣、「教育の憲法」と言われる教育基本法を改正し「我が国と郷土を愛する態度を養う」として愛国心条項を盛り込んだ。さらに防衛庁を「省」へと昇格させ、憲法改正に必要な「国民投票法」も制定した。

 その歩みを俯瞰(ふかん)すると国内最大の右派団体「日本会議」の動きとぴたりと重なる。

 神社本庁など保守系宗教団体からなる「日本を守る会」と、複数の保守団体からなる「日本を守る国民会議」が統合し日本会議は1997年に発足。「教育」「防衛」「憲法」の三つの目標を掲げた。

 「教育」は第1次安倍政権が成し遂げた教育基本法の改正。「防衛」は第2次安倍政権が強行した集団的自衛権行使容認とそれに基づく安保法制。

 残るは悲願の「憲法改正」…。

 第2次安倍政権発足以来、要職である首相補佐官の立場であり続ける衛藤晟一参院議員は、日本会議が主導し2014年10月に立ち上げた「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の設立総会で...

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