時代の正体〈561〉岐路の憲法【2】 屈折するも一点突破|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈561〉岐路の憲法【2】 屈折するも一点突破

安倍改憲考

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2018/01/04 15:20 更新:2018/04/15 15:34
【時代の正体取材班=田崎 基】「9条1項、2項を残したまま『自衛隊』を明記する」。安倍晋三首相が憲法施行70年を迎えた2017年5月3日に打ち出した「改憲提案」は、国内最大の右派団体「日本会議」が長年求めてきたものと異なっていた。しかし、足並みの乱れは全くない。年来のこだわりを捨て去り、改憲という成果を手にするために草の根の運動は「自衛隊明記」の一点に集中していた。


 衆院選投開票から3日後の17年10月25日。日本会議の関連団体「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(国民の会)が東京・千代田区で開いた集会では、開場直後から場内にポップな曲が鳴り響いていた。

 〈自衛隊さん、ありがとう~〉

 〈日の丸ふりふり しゃんしゃんしゃん〉

 甲高い女性ボーカル、そのバックには戦闘機が白煙を吹きながら宙を舞い、軍艦が陣形を組み海上を航行する映像が映し出された。

 取材に来ていた他紙の記者がつぶやいた。

 「まるで戦前の『兵隊さん』」

一変したチラシ


 安倍首相が改憲提案をした後、国民の会が改憲の必要性を訴えるチラシは一変した。

 14年12月の衆院選によって改憲勢力が3分の2を超えていた15年当時のチラシには「美しい日本を子供たちへ」というメインタイトルを掲げ、「悠久の歴史に育まれた美しい伝統と文化、そして世界の平和と繁栄に貢献する日本の使命、これらを盛り込んだ憲法が求められています」と強調。裏面には改正の7項目を掲げ、そのうちの三つ目は9条2項を改正し、「自衛隊の憲法上の規定を明記しましょう」としていた。

 「1項と2項を残す」とする安倍首相提案と真っ向から食い違う内容だった。

 新たなチラシでは最も目立つ表紙にピンク色で「ありがとう自衛隊」と大きく書き込み、自衛官が災害救助で腰ほどまで水に浸かり、少年を肩車して救出している写真が使われている。ミサイル発射の写真も並ぶ。北朝鮮による発射実験をイメージさせているのだろうか。

 自衛隊について「365日24時間、日本の守りに専念」「国際平和協力活動に、世界各国で貢献」「国民の暮らしを守るため、年間500回の災害救助へ」とある。そして国民の会共同代表の桜井よしこ氏の写真を添えて「今こそ憲法に自衛隊を明記しよう!」と締めくくる。

 災害救助や北朝鮮危機を強調し、そして国を守る「自衛隊」を憲法に書き込もうと国民感情に訴える。

 方針転換のあざとさが透けて見えるが、そこににじむのは改憲テーマを「自衛隊明記」の一点に絞り、国民投票で過半数を何としてでも奪取したいという必死さであった。

長年の主張と溝


 憲法公布から71年の節目となった2017年11月3日、横浜駅西口の高島屋前でも「自衛隊さん、ありがとう」のメロディーは鳴り響いていた。日本会議神奈川が主導して立ち上げた「美しい憲法をつくる神奈川県民の会」が主催した街宣活動だ。

 署名を求めチラシを配布していた女性(30)=大和市=に話を聞いた。

 -なぜ「自衛隊」を憲法に明記した方がいいのですか。 「自衛隊が違憲というのはかわいそう。まずは明記してほしい」

 -憲法に「自衛隊」と書き込んだ場合、運用をコントロールする条文がないことによる危険性はないか。 「その可能性もあるかもしれない。しかし災害時には活躍しているし、北朝鮮がミサイル実験を繰り返しているのでしっかり統率の取れた防衛組織があるのは心強い。まずは自衛隊を明記しないと話が進まない」

 「とにかく今は世論が高まらず関心が薄い。憲法改正の発議があり国民投票になれば多少なりとも考える人は増えるだろう。それが重要なこと」
 「まずは改憲」の号令の下、右派の組織は動いていた。

 街宣を企画した日本会議神奈川の木上和高さん(71)=鎌倉市=に自衛隊を明記する改憲の意味について聞いた。

 「国民の9割以上が自衛隊を支持している。本来は日本の独立を担える『軍隊』が当然必要だがそのことを国民全体が受け入れるのは難しいのが現状だろう。一方で9条2項を改正せずに自衛隊だけを書き込むという改憲は、実現可能性がある」

 「改憲」という目的達成のためには、長年訴えてきたものを捨て去る戦略。それは本来、日本会議が目指していた「独立国家の主権と名誉を守り、国民の安寧をはかる責任ある政治の実現」や「国を守る気概を養い国家の安全を確保するに足る防衛力を整備するとともに、世界平和に寄与する」といった行動指針との決別を意味するはずだった。

 「自衛隊」と憲法に書き込んだところで国の主権や安全保障環境が改善するとは考えられないが、しかしそれでもなお、その一点に集中し憲法改正を呼び掛けるのだった。

次の一手見据え


 理想と現実の乖離(かいり)が際立ったのは、11月27日に東京プリンスホテル(東京都港区)で行われた日本会議設立20周年記念大会の場だった。

 結党間もない「希望の党」を代表して登壇した前神奈川県知事の松沢成文参院議員は、詰め掛けた2千人と居並ぶ国会議員30人、地方議員70人をなめるように見渡し、こうぶち上げた。

 「(9条2項を残して自衛隊を明記すると)『交戦権』と『自衛権』がぶつかる。だから2項は外し『自衛権』があると書き、その自衛権を担保するために自衛隊を置くのだと明記する。その上で総理大臣によって(自衛隊を)文民統治すると書けば非常に分かりやすい」

 9条2項を残すという安倍首相の改憲提案を否定する主張だったが、会場から賛同の喝采が湧いた。

 後日、この乖離について日本会議事務局に問うと、こう返答があった。

 「国民の9割が...

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