刻む2017〈15〉悪質な運転二度と 東名高速で夫婦死亡事故|カナロコ|神奈川新聞ニュース

刻む2017〈15〉悪質な運転二度と 東名高速で夫婦死亡事故

東名高速道路下り線の事故で移動される車両=6月、大井町(車のナンバーを画像加工しています)

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 理不尽な怒りに端を発したとされる東名高速道路での夫婦死亡事故の取材を進めるたびに、疑問や憤り、悲哀がない交ぜになっていったのを覚えている。

 一連の報道を契機に、悪質な運転は社会問題として広く認知されるようになった。全てのドライバーが自らの運転マナーを見直すきっかけになれば、と願わずにはいられない。

 事故は6月5日午後9時35分ごろ発生した。

 捜査関係者や起訴状などによると、大井町の東名高速道路下り線で乗用車を運転していた男は、静岡市に住む一家のワゴン車の進路をふさぎ、追い越し車線に停車させた。そこに後続の大型トラックが突っ込み、夫婦2人が死亡、娘2人らがけがを負った。

 きっかけは、ささいな一言だった。

 現場から約1・4キロ手前の中井パーキングエリア。車路に車を止め、外でたばこを吸っていた男は、すれ違いざまに、亡くなった男性から「邪魔だ」と注意されたことに腹を立てた。

 ワゴン車を追走して、その前方に割り込み、減速して自分の車を接近させた。逃れようとして3回車線を変更したワゴン車に対し、男は執ように同じような行為を繰り返したという。

 大型トラックが追突したのは、男と一家の車が停車した約3分後。車外にいたとみられる夫婦は命を落とした。

 「邪魔だと言われ、かっとなって追い掛けた」。男は逮捕前の任意の聴取にこう話したという。
 

映 像


 「やれることは全部やった。本当に難しい事件だった」

 捜査員にそう言わしめるほど通常ではあり得ない事故だった。追い越し車線に2台が停車し、夫婦と男、男の車に同乗していた女性の計4人が車外ではねられた。

 捜査は自動車運転処罰法違反の過失運転致死傷罪ではなく、より刑罰が重い危険運転致死傷罪の適用を目指しスタートしたが、道のりは険しかった。

 県警高速隊と交通捜査課が最初に取り掛かったのは目撃者を捜すことだった。

 料金所のカメラなどから事故前後の時間帯に現場を通った車を特定。持ち主を割り出して連絡を取り、あおり行為や事故を目撃したかどうか、ドライブレコーダーに映像が残っていないかなどを一台一台確認して回った。

 現場は「日本の大動脈」とも言われる東名高速。捜査の対象は北海道から九州まで全国に及び、その数は約260台にも上った。ドライブレコーダーに記録されたデータは上書きされてしまうため、時間との戦いでもあった。

 加えて事故態様を解明する上で重要だったのが、夫婦の子どもたち、当時15歳の長女と、同じく11歳の次女の証言だった。

 目の前で両親を亡くした2人の悲しみは筆舌に尽くしがたい。それでも2人は質問に動じる様子は見せなかったといい、捜査関係者は「必要以上に明るく振る舞っている感じだった」と振り返る。別の捜査関係者は「話を聞くのは心苦しかったが、娘さんの証言がなければ立件は厳しかった」と明かした。

 県警は10月、横浜地検との協議を踏まえ、過失運転致死傷容疑で男を逮捕。その後、横浜地検は逮捕後の捜査で運転行為の詳細が明らかになったとして、危険運転致死傷罪で起訴した。

 捜査に携わった一人は「男の行為に見合った重い処罰を目指してきた。思いが届き本当に良かった」と語った。
 

全 国


 あおりといった危険な運転行為は、全国で後を絶たない。

 警察庁によると、2016年の1年間に全国で道交法違反(車間距離不保持)で摘発された件数は7625件で、うち高速道路での違反が6690件で約9割を占めた。車間距離不保持による交通事故発生件数は1229件、うち高速道路は75件だった。

 割り込みや追い越しなどに立腹した報復行為は「ロード・レイジ」と呼ばれている。東名高速の事故で逮捕、起訴された男は、事故前後にも山口県内で相手の運転に腹を立て、車を無理やり止めさせるトラブルを複数回起こしていたことも判明している。

 無謀な運転は、取り返しのつかない重大事故につながる。同庁は今月、悪質で危険な運転をした場合に最長で180日間の免許停止ができる道路交通法の規定を適用するよう都道府県警察に指示した。罰則の厳格な適用で危険な運転の抑止につなげる考えだ。

 一方、専門家は交通規則の遵守や運転マナー向上に向け、新たな取り組みの重要性を指摘する。

 交通犯罪を専門とする同志社大の川本哲郎教授は「あおり運転や幅寄せなど危険な運転行為に対する厳罰化に加え、学校や教習所で交通ルールや危険行為について教育を徹底することも必要だ」と話す。粗暴な運転を繰り返していたとされる男については、川本教授は「車や運転そのものを軽く考えていたのではないか」と推察もした。

処 罰


 男が起訴された10月31日、長女は「重い罪で処罰することは難しいと思っていましたが、危険運転致死傷罪で起訴でき、本当に良かった。これを機会にあのような無謀な行動をする人が減ればうれしい」、次女は「重い罪で処罰してもらいたいとずっと思っていました。(男には)二度と運転してもらいたくないです」とコメントした。

 若者を中心に車離れが進んでいるとはいえ、日本国内の自動車保有台数は8千万台に上る。2人の言葉はわれわれ社会に向けられたメッセージである。

 
東名高速道路の夫婦死亡事故 6月5日午後9時35分ごろ、大井町赤田の東名高速道路下り線で、静岡市清水区の女性=当時(39)=と夫=当時(45)=が死亡し、娘2人らが負傷する多重事故が発生した。県警は10月10日、一家のワゴン車の進路を乗用車でふさぎ停止させ、事故を誘発したなどとして、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)などの疑いで、福岡県中間市の建設作業員の男(25)を逮捕。横浜地検は同31日、危険運転致死傷罪に切り替えて起訴、停車後に夫の胸ぐらをつかむなどしたとして、暴行罪でも起訴した。

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