港WORKER:安全航海、祈りの汽笛 |カナロコ|神奈川新聞ニュース

港WORKER:安全航海、祈りの汽笛 

氷川丸船長・金谷範夫さん

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/12/25 12:02 更新:2017/12/25 12:48
 横浜港に面した観光名所、山下公園(横浜市中区)に係留されている「日本郵船氷川丸」の汽笛を聞いたことはあるだろうか。日本最大の客船「飛鳥2」(5万142トン)の出港シーンでは互いに汽笛を交わし合い、その美しい音色がミナトに響き渡る。金谷範夫・第28代船長(67)は、汽笛に航海の安全への切なる祈りを込めていた。

 金谷さんは日本郵船に入社後、貨物船や自動車船などに乗船。2003年から氷川丸船長を務め、船乗り一筋の人生を送ってきた。その経験から「汽笛を鳴らすというのは、実は船が非常時だということをアピールするもの」と説明する。

 特に汽笛が必要なのは、霧で視界が制限されている時。自分の存在を音で周囲に知らせるためだ。「夏のシアトル航路やマラッカ、シンガポール海峡で前線通過時も霧が出る。航行中は決められた間隔で鳴らし続けた」。1930年に建造された貨客船で、シアトル航路を航行した氷川丸は当初は蒸気で鳴らす汽笛を使った。金谷船長は「日活映画に出てくるように、腹の底から響くような低い音」と表現する。

 港内で左右に舵(かじ)を切るときや後進する際の汽笛の種類は、国際的な共通ルールが決められている。4秒以上6秒以下で吹鳴させる長音と、1~2秒の短音があり、これらを組み合わせて使う。

 氷川丸は61年から横浜港に係留され、もう二度と動くことができない。ではなぜ、汽笛を鳴らすのか。

 「汽笛は、引退しても船が生きている証拠」と金谷船長は力強く話す。氷川丸の大切な役割は、飛鳥2に向けた「答礼の汽笛」だ。

 長音3声の汽笛を鳴らして出航する飛鳥2に対し、氷川丸は同じ汽笛で答える。すると、飛鳥2が再び長音3声で答えてくれる。

 金谷船長は非公開エリアの左舷デッキに立ち、タグボートが飛鳥2から離れて離岸作業が落ち着いたころを見計らい汽笛吹鳴ボタンを押す。「自分でも乗っていたので、安全航行のためにはタイミングは計った方がいいかなって」

 3回のうち最後の長音は、少し長めに鳴らすのが氷川丸流だ。「余韻が残るじゃないですか。ああ、無事に行ってらっしゃいって」

 飛鳥2と氷川丸はともに日本郵船グループの所有船。同じ会社の船がすれ違うときは国際信号旗の「UW旗」を互いに掲げるだけで、汽笛を交わし合うのは横浜港だけだそうだ。

 氷川丸が鳴らす汽笛は他にもある。正午を知らせる汽笛や、トライアスロンやマラソン、花火大会の開催を告げる汽笛などだ。有名なのは新年を迎えた瞬間、港内の船が一斉に汽笛を吹き鳴らす「除夜の汽笛」。その代表格が氷川丸だ。

 除夜の汽笛は環境庁(現環境省)による残したい「日本の音風景100選」に選ばれた。霧中でも汽笛の音程によって相手の大きさが想像できるよう、大きな船ほど低く設定しており、港内で汽笛のハーモニーが楽しめる。

 氷川丸の汽笛は今では圧縮空気を使っており、煙突に備えたホーンからは透き通った音色が出る。金谷船長は話す。「その声はかつて乗船した宝塚歌劇団のよう。除夜の汽笛を聞きに来てほしい」

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