時代の正体〈559〉「差別主義者は卑怯者」 私が断じるわけ|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈559〉「差別主義者は卑怯者」 私が断じるわけ

記者の視点=デジタル編集委員・石橋 学

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/12/09 22:32 更新:2018/11/25 17:40

度し難い確信犯


 度し難いのは、差別をあおった結果、何が起きるかを知った上で攻撃を繰り返しているという確信犯ぶりだ。

 崔さんを見せしめにするのはこれが初めてではなかった。

 瀬戸氏による講演会やヘイトデモの計画が明らかになるたび、「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」は市に対処を申し入れてきた。瀬戸氏はメンバーの一人である崔さんにターゲットを絞り、個人攻撃を繰り返してきた。

 傷ついてなどいないのに被害者ぶっているという、これ以上ない虚言をブログに書き連ね、自分が川崎で行動するのは崔さんのせいであるかのように仕立て、運動の分断を図り、訴えをやめない崔さんを孤立させようという卑劣な意図は明らかだった。

 ネット上では「言論弾圧」「不逞(ふてい)鮮人」といったいわれなき中傷がただちに広がり、崔さんの職場には「朝鮮人は朝鮮へ帰れ」という脅迫電話がかかってくるようになった。頭部と胴体がばらばらにされたゴキブリの死骸が封書で届いたこともある。

 大手ライブドアブログの政治部門で人気ランク2位の筆が持つ扇動効果に私は震える。

 だが、瀬戸氏は、崔さんが映った同じ写真を2日後に再び掲載するという執拗(しつよう)さで追い打ちをかけた。

 ネット上に押し寄せる差別主義者の攻撃に耐えかね、崔さんがツイッターをやめたことを伝える、やはり私の記事を揶揄(やゆ)することで崔さんを攻撃した。

 〈同情を寄せる人もいるようですが、地元ではとてもはつらつとした顔で自転車をこいでいる姿を見た人もいるようです〉

 訴えても訴えても、被害などないのだ、と差別を正当化する。逆に、うそをついているとおとしめ、うそつきにだまされてはいけないと敵視をあおる。そして「いつもそばで見ているぞ」と脅すという、おぞましさ。

 私は記事で、名前や顔、職場までネット上にさらされた崔さんが、見知らぬ誰かにいつ襲われるか分からないという恐怖で、平穏な日常生活を送れなくなっているという切迫した状況を書いている。

 記事に目を通した上であろう瀬戸氏は、一人の女性を危険にさらしている当事者の一人であるはずなのに、素知らぬ顔をするどころか、またも傷つけるためだけに書くのだ。

 〈本人がツイッターをお辞めになることと、我々日本人は関係ありません。日本社会が悪いから崔江以子本人が生きづらいかのように書いているが、それはないでしょう〉

 人間の存在をどこまでないがしろにすれば気が済むのか。底なしの悪意をたたえる、その心根を私は憎む。


差別主義者に居場所なく


 〈会場は定員が100名となります。多くの人にご参加頂きたいと思います〉

 そう締めくくられる瀬戸氏の告知記事はほとんど決まって、福島で営む農園で採れたリンゴの注文を受け付ける文面に続く。自著の宣伝も忘れない。

 愛国者の装いで「言論の自由を守る闘い」「民主主義を守る」などと語っても、結局は人を痛めつけることで関心を引き続け、食い物にしているだけではないのか。守りたいのは「言論の自由」などではなく、「差別する自由」ではないのか。

 私は問いたい。

 これでもあなたは瀬戸氏に賛同し、講演会に参加しようというのか。

 もはや川崎に差別する自由を謳歌(おうか)する居場所はない。当事者の勇気ある訴えは国会へ届き、法を実らせ、自治体でガイドラインという花を一つ咲かせた。人としてありたいという存在を懸けた心からの言葉は消えることなく、力強く響き続けている。

 それに引き替え、川崎市で講演会を行ったという実績を残すことでガイドラインが無効なものであると示したい、などという空虚さはどうだろう。

 条例の阻止という企ても必ず徒労に終わる。

 6日、市議会定例会の代表質問で公明党の春孝明氏は福田紀彦市長に問うた。

 「ガイドラインのパブリックコメントでは過去に例を見ない922件、2053件もの意見が寄せられた。いかにこの課題が市民にとって関心が高いかを物語っている。今後ガイドラインの趣旨、実効性を高め、ヘイトスピーチ撲滅に努めるべきだが、市長の決意は」

 パブコメには瀬戸氏の呼び掛けでガイドラインに反対する意見も寄せられているはずだが、福田市長はそれには一切触れず、答弁した。

 「ヘイトスピーチは、違いを豊かさと認め合いながら多文化共生のまちづくりを推進する本市の姿勢とは相いれない。今後も一人一人の人権を大切にする施策を推進していく。条例の制定に当たっては、あらゆる差別を本市から根絶することを目指すものであるべきと考えており、今後丁寧に検討していく」

 川崎であからさまなヘイトスピーチはできない。ガイドラインに縛られた瀬戸氏の講演はあなたの心に巣くう「ヘイト欲」を十分満たすものにはなるまい。

 それでも足を運ぶというのなら、私はあなたを「卑怯者」と非難する。

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