時代の正体〈542〉 権利の主張が未来開く 安倍政治を問う|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈542〉 権利の主張が未来開く 安倍政治を問う

立教大特任准教授・稲葉剛さん(下) 2017衆院選

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/10/20 17:20 更新:2017/10/20 19:27
【時代の正体取材班=成田 洋樹】安倍晋三政権がアベノミクスの効果を喧伝(けんでん)する衆院選。貧困問題に取り組む稲葉剛さん(48)はその効果を疑問視し、「不安定な労働や住まいでの生活を余儀なくされている若年層の貧困が見えづらくなっている」と指摘する。政権は家族の助け合いを強化しようとしており、あらゆる人々の生活を支える社会保障が切り崩されかねないと懸念している。

見えにくい貧困


 安倍政権が力を入れているアベノミクスは、富める者が富めば恩恵は中流層にも滴り落ちると信じられている「トリクルダウン」の経済政策です。確かに雇用は増えましたが、増えた仕事の多くは不安定な非正規雇用です。いくら働いても貧困から抜け出せないワーキングプアの状態の若者も少なくありません。その中にはアパートの敷金や礼金をためられないため、安定した住まいを確保できない人もいます。

 都内では、2、3畳程度の狭い「脱法ハウス」が広がっていると実感しています。貸倉庫などの名目で住宅の規制を逃れる手口の「貧困ビジネス」です。若者の中にはネットカフェに行ったり、脱法ハウスに行ったり、友達の家を転々としたりする人がいます。ワーキングプアであるがゆえにハウジングプア(住まいの貧困)にならざるを得ないのです。

 経済的に安定しないため親元で暮らさざるを得ない若者も増えています。2014年に首都圏と関西圏の若者を調べたら、年収200万円未満の20、30代の8割近くが親と同居していました。

 1990年代は路上で暮らすホームレスの人の生活保護申請を受け付けない違法な行政運用がなされていましたが、法律家やNPOなどが運用を改善させた結果、今年1月にはピークの2003年の4分の1以下の約5500人まで減りました。他方で、住まいが不安定だったり、親元で生活していたりして将来が見通せない若者が増えているので、貧困が見えにくくなっています。

 若者らが住まいの貧困に直面しているのは、安価な賃貸住宅を提供する公的住宅政策が貧弱だからです。欧州では若年層が親から早く独立できるように公的な住宅を提供する政策を採っています。住まいが安定していれば新たな家族をつくり、子どもをもうけることもできるようになるので、少子化対策にもつながるという考え方です。

家族の絆を強調


 日本社会では逆に、「親元にいるなら問題ないではないか」という考え方が根強くあります。しかも安倍政権は3世代の同居や近居を誘導する住宅政策を進めています。家族の支え合いを過度に強調し、公的な責任を後退させる政策が採られているのです。

 生活保護基準引き下げと同時期に行われた生活保護法の改悪でも、家族の責任を強調する同じ流れがつくられました。家族ら扶養義務者への圧力強化です。

 生活保護申請があった場合、家族が「援助できない」といった場合でもさらに圧力をかけて援助を求めることができるようになってしまいました。実際には家族関係の希薄化に加え、家族と確執があったり、家族も困窮しているために頼れない人が多いのですが、安倍政権はそうした社会の現実を踏まえない政策を推し進めています。

 家族の絆を強調する安倍政権の発想を、私は「絆原理主義」と呼んでいます。この象徴が、自民党が2012年にまとめた改憲草案の24条です。「家族は、互いに助け合わなければならない」という文言が新たに盛り込まれました。

 24条の改悪は、生活保護など社会保障制度の根拠となっている25条にも影響を及ばします。

 私はこれまで3千人の生活保護申請を支援してきました。行政の水際作戦を突破して生活保護を権利として認めさせる反貧困運動のよりどころとなってきたのが、25条の生存権規定でした。さすがに25条を変えようとする政党はありません。しかし、家族の責任をより強める24条によって、健康で文化的な最低限度の生活を国が保障すると定めた25条が形骸化する恐れがあります。

弱者たたく風潮


 中間層の崩壊で生活が苦しくなっている人が増えているのに、怒りの矛先が富裕層や彼らを優遇する政治に向かっていません。むしろ安倍政権を支持する若者が少なくありません。

 米国では大統領選で民主党のバーニー・サンダース氏が、英国の総選挙では労働党党首のジェレミー・コービン氏が、格差是正や再分配を求める若者の支持を集めました。日本でも最低賃金を1500円にするよう求める「エキタス」という若者の社会運動はありますが、社会を変える大きなうねりにはまだなっていません。

 日本では格差や貧困の広がりによって、弱いものがさらに弱いものをたたくという風潮が強まっています。背景には、よりよく生きる権利を主張することを嫌う文化がこの国にあるように思えてなりません。...

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