時代の正体〈541〉ヘイトに点火し助長 安倍政治を問う|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈541〉ヘイトに点火し助長 安倍政治を問う

立教大特任准教授・稲葉剛さん(上) 2017衆院選

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/10/20 10:23 更新:2017/10/20 19:28
 【時代の正体取材班=成田 洋樹】社会に漂う排外や排他の空気に点火し、燃え上がらせようとしているのは誰なのか。貧困問題に長年取り組んできた稲葉剛さん(48)の目に映るのは、ヘイト(憎悪)を自ら振りまき、社会に広がるヘイトの風潮を燃料にして支持を集めようとする与野党の政治家の姿だ。誰もが保障されているはずの個人の尊厳が危機にさらされていると訴えている。

行政歪める


 5年前の民主党からの政権交代後に安倍晋三政権が真っ先に取り組んだのが、生活保護基準の引き下げでした。厚生労働省の有識者組織が基準見直しの検討を続けていましたが、選挙公約で1割削減を打ち出した自民党の政治的圧力によって厚労省は大幅な引き下げを余儀なくされました。

 基準は科学的なデータに基づいて算定されなければなりません。しかし、厚労省は生活保護利用者の生活実態を反映したものではない物価指数を持ち出し、自民党案のつじつまが合うようにしました。加計学園問題で前文部科学事務次官の前川喜平さんが「行政が歪(ゆが)められた」と告発しましたが、同様のことが起きていたのです。社会保障の岩盤である生活保護基準が下がり、連動する低所得者対策の水準も下がりました。私たちの生活を支える社会保障の地盤沈下につながっているのです。

 民主党政権の社会保障政策を「ばらまき」と批判して公約に掲げた引き下げへの伏線には、自民党参院議員の片山さつき氏が加担した生活保護バッシングがありました。「お笑い芸人の母親による不正受給疑惑」として追及され、法的には問題がなかったにもかかわらず、不正受給が広がっているとの誤った印象を広めました。生活保護利用者への根強い偏見を利用して事実とは異なることをでっち上げた政治によって引き下げへの流れがつくられたのです。

 中間層の崩壊でさらに弱い立場の人にヘイトのまなざしを向ける社会の風潮を利用してバッシングの世論を自ら引き起こし、政策実現への推進力にする。あるいは選挙での集票につなげようとする。マッチポンプのような政治こそ、安倍政権の本質です。

 最近では麻生太郎副総理兼財務相が「北朝鮮の武装難民は射殺を検討しなければならない」と発言しました。「難民は危険な人たち」との刷り込みを意図したもので、人権、生命を否定する暴言でした。日本に助けを求める難民が武装するというありえない想定を持ち出した上に、難民は保護しなければならないと定めた難民条約をも無視しました。いまだ撤回も謝罪もしていません。メディアの追及も弱く、命を軽んじるヘイトに寛容な社会になってしまっています。

 相模原障害者施設殺傷事件では被告が事件前に衆院議長の公邸や自民党本部に行き、手紙を通じて殺害計画への理解を求めていました。安倍政権であれば、自分の考えを後押ししてくれると信じていたのでしょう。欧米の首脳であれば差別を断固非難する声明を出しますが、安倍首相からは積極的な発言はありませんでした。それでは社会に広がる障害者差別を黙認し助長しかねません。

 ヘイトの動きは自民党だけでなく、野党にも広がっています。日本維新の会の比例南関東ブロック1位の長谷川豊候補はかつてブログで「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ! 無理だと泣くならそのまま殺せ!」と記しました。希望の党の比例九州ブロック1位の中山成彬候補は、排外主義的な発言を繰り返しています。1位で遇する両党が、ヘイトを許容していると受け取られても仕方がありません。

歴史の断絶 


 20世紀に人類はレイシズム(人種差別主義)や排外主義を経験しました。関東大震災時の朝鮮人虐殺しかり、ナチスドイツによるユダヤ人虐殺のホロコーストしかり。多大な犠牲をもたらした悲惨な歴史を克服しようとしてできた一つの結晶が、...

PR