時代の正体〈539〉日本社会を問う 空気読まず個であれ|カナロコ|神奈川新聞ニュース

時代の正体〈539〉日本社会を問う 空気読まず個であれ

昔話研究者、筑波大名誉教授・小澤俊夫さん 2017衆院選

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/10/15 10:08 更新:2017/10/15 19:08
 2月、都内で講演した昔話研究者・小澤俊夫さん(87)に笑顔はなかった。神妙な面持ちで「危険は目の前に迫っている」とこの国の行く末を案じた。あれから7カ月。衆院選を前にした9月の取材では、より深刻な言葉が返ってきた。

 危険は目の前に迫っている。僕は2月の講演会で、そう言いました。あれから半年以上たつが、その不安は一層強まっている。僕は先の大戦を経験しているけれど、当時と今の社会の雰囲気が非常に似ている。

 僕は87歳の昔話研究者です。生まれは中国の長春。小学校5年生の1学期まで北京で育って、1941年5月、真珠湾攻撃の半年前に日本に帰ってきた。だから、第2次世界大戦は東京の立川で経験している。

 中学2年生だった44年には、いわゆる学徒動員で、陸軍第2造兵廠(しょう)の東京・南多摩にある火薬工場に配属された。極めて真面目な子だったから『僕が働かないと日本は負ける』と本気で思ってね。最近、当時の日記が出てきた。

 〈45年4月30日(月) 7時の報道の時ヒムラー国内軍司令官が米英に降伏を申し出たといったので驚いてしまった。ドイツもいよいよだめかと思うと国民やヒットラーが可愛(かわい)想(そう)でならない。しかしヒットラーは偉かった。世紀の英雄である。悲しきかな英雄の末路。(略)日本もうかうかしていればこのようになるであろう。一刻も早く雄渾(ゆうこん)なる政治が出てこの危局を乗り越えて行くことを念ずる〉

 いま読み返すと、本当に嫌になっちゃう。完全に軍国少年だったんだ。子どもは教えられたら一(いち)途(ず)に信じていく。いま大人たちは、子どもたちに同じ過ちをしていないだろうか。

 例えば、教育勅語。森友学園問題に端を発したけれど、安倍政権はその考えを否定しなかった。「父母に孝行し、兄弟は仲良く、などいいこともあった」と。しかし、教育勅語の本質は国民に対して、天皇と国のために命をささげることを命じている点にある。

 いま、その教育勅語を教える幼稚園がある。その子どもたちが大人になる20年、30年後、日本はどんな社会になるだろうか。

物言えぬ雰囲気 


 戦中、個人は悪の象徴だった。戦後「個人はいいこと」となったけれど、いまそれが怪しくなっている。自己、自我を強く持つことを日本人は罪だと思っているのかもしれない。

 戦中、スカートをはいている女性がいすで足を組んでいたら『敵国主義』とされた。米国風で敵性の態度だ、と。

 いま、どうだろうか。例えば、職場で堂々と「原発反対」と言えますか。口に出せなくなることが怖い。その雰囲気が恐ろしい。

 「長いものに巻かれろ」という言葉がある。今風に言うと「空気を読め」。僕は「空気を読むな」と言っている。そして自分の意見をはっきり言おう、と。みんなが空気を読んでいたら戦前、戦中の日本にたちまちなるよ。いまはその一歩手前だと思う。

 父の小澤開作は、そういう意味ですごかった。空気を読む、ということを最後までしなかった。

 日本は31年に満州事変を引き起こした翌32年、中国東北部に「満州国」を建国する。歯科医だった父は、謀略の中心にいた関東軍参謀・板垣征四郎と石原莞爾の2人と親交を持ち、政治運動に関わるようになる。

 余談だけど、僕の弟である指揮者・小澤征爾は、板垣と石原の名から1文字ずつ採って「征爾」と名付けられたんだ。

 話を元に戻すと、当時、陸軍では板垣・石原系と東条英機系が力を競っていた。満州は共産主義への防波堤ということで関東軍が強かったが、満州国の建国後は、岸信介はじめ、中央官僚が支配するようになった。

 父は貧しい農家出身。弱者に横柄に振る舞う同胞が許せなかったんだろう。軍部の横暴や官僚腐敗を批判し、治安維持法に基づく監視対象となった。北京にいる間、毎日家には思想憲兵が来ていたよ。でも、父はその面前で軍や政府のやり方を批判した。

 帰国後は立川に住むんだけど、立川警察署の特別高等警察の高木課長という人が毎日来た。家の中で、来客との会話から電話の通話内容まで全部聞いている。父は北京時代と同様、政府と軍部のやり方を批判していた。僕は父が逮捕されるのでは、と怖くて仕方なかった。でも、最後まで捕まらなかった。それが不思議だった。その謎が解けたのは父が死んだ後だった。

 葬式が終わった何日か後、送られてきた手紙にこう書いてあった。

 「私は戦争中、立川署で特高課におりました高木と申します。当時、職務上、お宅を訪問しておりましたが、ご主人のお話をうかがううちに、この人こそ本当の愛国者なのだと思うようになり、ひそかに尊敬申し上げておりました」...

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